世界保健機関(WHO)の精神衛生課のデボラ・ケステル課長は、「隔離状態や将来への不安、経済問題など、こうしたあらゆる要因が人々にとてつもなく大きな精神的な緊張を引き起こしている」と解説した。ケステル氏は、調査結果では回答者のうち中国で35%、イランで60%、米国で45%という割合で、ディストレス(不安を引き起こす過剰なストレス)を訴える人たちの増加したと指摘した。ロシア保健・社会開発省の主任精神科医であるズラブ・ケケリゼ氏は、ロシアでも同様に精神科医を受診する人数の増加が確認されていると発表した。
こうした傾向に関連し、国連の専門家らは各国政府に対し、国民の精神衛生への一層の注意や、遠隔を含めた「緊急心理相談サービス」体制の確立を訴えた。
通信社「スプートニク」は、ピラゴフ名称ロシア国立医学研究大学の医療心理学および精神医学科のアンドレイ・シュミロビッチ学科長に状況の解説をお願いした。
「私たちは、激変した生活状況の中で生じた反応性、妄想性の障害やパニックといった深刻な精神疾患という問題を抱えています。こうした問題を私たちは『新型コロナ精神病』と呼んでいます。こうした症状はこれまでまったく健康だった人たちにも表れています。ホットラインに相談の電話をかけてくる男性の割合は著しく増加し、今では女性よりも多くなっています。5件のうち最低3件は男性という状況です。訴えの中身については、基本的には家族または配偶者との関係の疲れ、感情のコントロールの困難、経済的な問題、失業の恐怖といったものです。なんらかの措置をとらなければ、大人たちの中で自殺が急増するおそれがあります。さらに今、飲酒で不安を紛らそうとする人が増えています。この深酒が背中を押して彼らが極端な行動に走るおそれがあります。また、子どもや未成年者でさえ不安や心気症を経験しています。こうした年齢層に現れやすいのが拒否反応で、たとえば、これ見よがしに友人と会ったり、家から逃げ出すことがあります。さらに、心理相談サービスには医療関係者自身も駆け込んでいます。彼らは今、あまりに大きな緊張に晒されているからです」。
共同通信によれば、日本でも同様に市民から不安を相談する電話が増加しているという。埼玉県の24時間サービス「いのちの電話」では、4月はじめから電話数が20%増加した。
そうした相談の70~80%は、新型コロナウイルスに関連している。相談者の年齢層の多くは40代と50代で、彼らはもっぱら経済の低迷で職を失うことと、新型コロナウイルスの感染を心配している。学生たちもまた、あまりに多くの授業が中止されてしまったことから先行きを案じている。一日中家で子どもの面倒をみる必要のある親たちもアドバイスを求め電話をかけている。
こうした一方で日本版ガーディアン紙の特派員によれば、日本の4月の自殺者数は昨年比で20%減少した。同紙の指摘によれば、この数値は過去5年間でもっとも低い。
ところが早稲田大学の上田路子准教授は、残念ながらこれは一時的な現象に過ぎないと考え、以下のようにコメントした。
緊急事態宣言に伴う休業などの影響で日本経済は大きな影響を受けていること、失業をした人や収入が大きく減った人がたくさんいることを考えると、コロナ が落ち着いた頃に(自殺率が)急激に上昇する可能性はあると思います。私と共同研究者は4月中旬に日本人の一般市民を対象にサーベイ調査をしたのですが、それによると、高齢者よりも勤労世代のほうがメンタルヘルスの状態が悪いようです」。
スプートニク:なぜ日本人は非常事態が過ぎた後に自殺をするのでしょうか。これは、国の困難な時期には近親者を助けなければならないという日本人の責任感や義務感と関係しているのでしょうか。
今、新型コロナウイルスに関わる規制の中で最大の不快感を味わっているのは、普段の生活では山積みの仕事を片付け、あちらこちらへと移動し、たくさんの人たちとコンタクトを持つのが普通と考えている人たちである、というのが大方の見方だ。家にいて、ほとんど人付き合いのない状態に慣れている人たちは今の状況を容易に受け入れている。しかし、専門家らは、さまざまなレベルでパンデミックは多くの人たちの精神状況に否定的な影響を及ぼすと確信している。そうしたことからWHOのテドロス・アダノム事務局長は、次のように強調している。
「精神的健康を守るという課題は、新型コロナウイルスのパンデミックを防止しその影響を克服する上で中心的な課題の1つとならねばならないことは火を見るより明らかだ」。