軽油は石油の中で最も有毒
この事故で流出した軽油は、2万トン以上。
このうち1万5000トンが付近の水域に、残りは土壌に流出した。汚染の総面積は約18万平方メートル。水面に生じた油膜の厚さは20センチ、水中の汚染物質の濃度は許容基準の数万倍に達した。軽油は、最も有害な石油製品ランキングの中で最上位を占める。今回の流出が発生した場所は、永久凍土地帯に位置する北極圏のツンドラという、人がアクセスしにくいエリア。現在、川に流出した軽油や汚染された土壌の回収作業が行われている。これらは後日、仮置き場から搬出され、処分される予定。今回の事故は、1989年3月にアラスカ沖で発生したエクソンバルディーズ号原油流出事故、2010年4月にメキシコ湾の石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」で発生した原油流出事件に匹敵する。いずれのケースも原油流出に伴う事故であり、環境への悪影響という点では最大級の人災だとみられている。
「このような事故は突然起こりはしない」
「このような事故は決して突発的に起きるものではありません。第一に、この発電所の設備はすでに長い間使用されており、建設当時の技術が事故のリスクを最大限に低減できるようになっていないのが事実です。第二に、この数ヶ月間でこの地域で観測された異常な高温が、今回の事故の誘因となりました。」
「第三に、軽油タンク自体が永久凍土よりも温度が高いため、事故を回避する措置を講じなければ、タンク自体がその真下にある永久凍土の上層部分の融解を促す恐れがあります。この危険な構造物を監視するためにセンサーを設置する必要がありました。今回のノリリスク近郊での事故が、北極圏で活動する全ての企業の教訓になることを願っています。特に危険な構造物の真下にある永久凍土を少なくともモニタリングする必要があります。」
永久凍土はもう永久ではない?
世界の永久凍土の3分の1がロシアに集中している。その凍土面積は約1000〜1200万平方キロメートルで、これがロシアの国土の半分以上を占めている。ロシアの石油・ガス生産塔やパイプラインの約50%は、永久凍土地帯に建設されている。ロシア水文気象環境監視局が3月に発表したロシアの気候に関する報告書によると、ロシアの気温上昇速度は10年間で0.47度だが、北極圏ではそれが0.81度とほぼ2倍の速度で上昇している。このロシアの速度は、世界の10年間の気温上昇速度(0.18度)の2.5倍以上。
この気温上昇が異常気象を引き起こす。例えば、その土地のほぼ全てが永久凍土のヤクーツク(シベリア)では、冬が短くなることで気温は上昇し、雪がより多く降るようになる。この変化は、永久凍土にとって良いことではない。雪が地球の毛布のような役割を果たすため、積雪層が厚くなればなるほど、地球表面の温度は上昇する。
永久凍土溶解で、他に何が溶けだすか?
「地面の下の永久凍土にはメタンガスを含む天然ガスハイドレードを大量に蓄積しています。永久凍土の融解はメタンガスの放出を引き起こし、温暖化を加速させます。そして温暖化は永久凍土の融解を加速させます。これでは悪循環です。北極圏の自然は、どんなテーマの会議でも言われているように、非常に脆弱で壊れやすいものです。研究者らは、この永久凍土の溶解によって引き起こされる事柄について、すでに何度も警告しています。」
北・南極圏の永久凍土が溶けることで想定される影響を入念に研究してきた気候科学者らは、地球温暖化は多くの危険をもたらすとみている。
特にこの問題に関して、永久凍土を観測するために世界的な研究ネットワークを構成する26ヶ国からなる研究グループが、科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」に論文を掲載している。
地球上の永久凍土の総面積は3500万平方キロメートルで、これは地球上の陸の総面積25%に相当に相当する。永久凍土に埋蔵されているメタンと二酸化炭素の埋蔵量は、工業生産の年間のそれぞれの排出量の何百倍に相当する。研究者らは永久凍土が融解した場合、地球の気候変動の速度を大幅に加速させる恐れがあると危惧している。