「歩きスマホ」に罰金?
日本の警察庁の最新データによると、2018年の携帯電話使用等に係る交通事故件数は2790件で、過去5年間で1.4倍に増加した。
「歩きスマホ」に対する世界の動きは?
日本だけでなく、世界的にもスマートフォン使用時の交通事故が増えている。「歩きスマホ」に対する罰則規定を導入し始めた国は今のところ多くはないが、時間を経るにつれてこの動きは一般的になっていくかもしれない。
世界で初めて「歩きスマホ」の行為に市民の責任を求めたのは、米ハワイ州のホノルル市。同市では、「歩きスマホ」の違反が繰り返されれば罰金の額は増加していく。例えば、1回目なら35ドル(約3700円)、2回目は75ドル(約8000円)、3回目は99ドル(約1万600円)を支払わなければならない。
中国の浙江省嘉興市でも「歩きスマホ」禁止条例が施行されている。違反すると罰金を支払う義務があるが、その額は5〜50元(75〜760円)とホノルルやモントクレア市に比べると少ない。
日本では罰則なしの禁止条例で効果をあげられるのか?
スマートフォンや通信に関する市場調査や消費者動向を調査するMMD研究所によると、アンケートに答えた約96.6%が「歩きスマホ」は危険だと感じている。一方、IT施策の一端を担う政策実施機関「IPA(情報処理推進機構)」の調査によると、約40%の若者が「歩きスマホ」は「注意していれば事故につながることはない」と回答し、歩行中のスマホ操作はやめないと考えているという。この傾向について早稲田大学の加藤麻樹教授は、「歩きスマホ」に関する問題は、他人には関係があっても自分には関係はないという自信が、「歩きスマホ」を止めようという社会のポジティブな変化を妨げているのではないかと分析している。
加藤教授によると、大和市がこの条例案を承認し、施行後その効果が認められれば、この種の禁止措置は日本の他の都市にも導入される可能性がある。しかしコロナ禍の今、この問題に世間の注目を集めるのは難しいかもしれない。
「過去の事例として受動喫煙防止条例や迷惑防止条例など、フロントランナーに一定の効果が認められることで全国的に展開する例があったように、大和市で可決し、かつ一定の効果が認められれば条例案が提出される可能性はあると思います。東京や大阪など特に人口が多くかつ全国に対する影響が大きい自治体における提案可能性もあるでしょう。ただ現在はご存知の通り新型コロナウィルスの問題があまりにも大きいため、市民の関心が集まらないかもしれません。」
一方、立教大学の芳賀繁名誉教授は、罰則なしの「歩きスマホ」禁止条例に対してより楽観的な見方を示している。
では、条例は役に立たないかと言うと、そうではない。法律や条令は集団規範を変えるきっかけとなる可能性がある。日本では以前、歩きながら煙草を吸う人が多かったが、歩き煙草の条例ができてからは、非常に少なくなった。迷惑だと思っても注意できなかった人が、歩き煙草をしている人に注意できるようになったことや、歩き煙草は他の人や、特に子どもに迷惑だという認識が広まったからと思われる。したがって、歩きスマホの禁止条例も、多くの人に『行うべきでない迷惑行為だ』という認識を広めるのに役立つだろう。」
芳賀名誉教授は、この問題を国民に広く知ってもらうためには、危険性よりも迷惑性に焦点を当てることが重要だと考えている。
「なお、歩きスマホは『あなたが怪我をするリスクが高いからやめるべきだ』と説得するより、『周りの人に迷惑がかかるからやめてほしい』と伝える方が効果的だ。『煙草が肺がんリスクを高める』と言っても『好きな煙草をやめてまで長生きしたくない』と言って煙草をやめようとしない。しかし、『受動喫煙が家族や子どもの健康を害する』と言う情報が広く知られるようになってから禁煙する人が増えた。
ナビゲーションや仕事の連絡でスマートフォンをどうしても移動中に使いたい、使わなければならない時はありますが、その場合は『歩きながら』使うのではなく、道路/通路の端に寄って止まって使えばいいだけの話です。」