安倍氏 国民の支持を取り戻せるか?
取りざたされる安倍首相の早期辞任説について、スプートニクは明治大政治経済学部の西川伸一教授に見解を尋ねた。
一方で、安倍首相が総裁任期満了を待たずに辞任する可能性はあると思います。内閣支持率が10%台前半にまで下がって、これでは次の総選挙は戦えないという『党内世論』が高まれば、さらに公明党から同様の声が挙がれば、辞任に追い込まれると考えます。首相にとって一番面目が立つのは来年9月末の総裁任期満了で総理総裁の座を退き(前倒しもありえます)、新総理総裁によってただちに解散・総選挙が行われることでしょう。こうして勇退できるかは、それまで支持率が極端に下がらないかにかかっています。」
西川伸一氏 はこう語る一方で支持率回復と総裁4選というパターンもないわけではないとの見方を示している。
「偶然なのでしょうが、朝鮮半島情勢がにわかに緊迫していました。通常国会を閉じて国民の目を内政から『外』へ向けさせ、この『国難』に立ち向かえるのは自分だけだとアピールすれば支持率回復はありえると思います。内閣支持率は下がっていても野党の支持率は上がっていませんし、ポスト安倍と目される石破茂氏も岸田文雄氏も存在感はいまひとつです。そうなれば当然総裁4選を求める『党内世論』が形成されるでしょう。自民党議員にとって一番重要なのは、だれが総理総裁であれば次の総選挙で確実に再選できるかですので。」
安倍首相は今の段階では繰り上げ選挙を目的とした衆議院解散の可能性も自民党総裁4選の意図も否定している。日本のマスコミの調査した最近の安倍内閣支持率は36%にまで落ち込んだ。しかも「支持しない」と答えた人の割合は、2012年の第2次安倍内閣発足以降、最も高くなっている。朝日新聞が実施した世論調査では、安倍氏の4選を支持しないとする人は69%と多い。
露日関係は「安倍首相ではなく、国際関係の問題」
ロシアに詳しいジャーナリストの小林 和男氏は、コロナウイルスをめぐる状況が今日、国際関係を見直すことがどれだけ重要かあぶりだしたとして、次のように語っている。
(従って、)安倍首相だからではなく、国際関係の問題です。安倍首相は国内のさまざまなスキャンダルが表面化して支持率が急落していますが、日本にとっては国際関係を冷静に理解できる指導者が登場するチャンスを作っているかもしれません。」
と同時に小林氏は日本が米国のミサイル防衛システム「イージス・アショア」の配備を断念したという事実にも着目している。確かに現段階では「日本がアメリカの指示に従わなかった」ことが何に起因するかはわからないものの、 小林氏はこれが 「日本とロシアの関係を見る上で大変興味ある決断」となったと確信している。
小林氏は日露の経済関係をいかに発展させても、安全保障問題の解決なきまま平和条約締結を死点から動かすことは不可能という見解に傾いている。なぜなら現時点では日本は諸島に米軍基地は出現しないことが保証できず、これがゆえに諸島の一部を引き渡すか、というまでの交渉もありえないからだ。
「岸田さんはコロナ問題を抱えた世界で日本をリードし国際的な関係を築いて行ける人物ではありません。後継者にはならないと思います。石破さんは冷静な判断ができる人物だと思いますが、今の困難な世界で行動できるようなブレインを抱えているかどうか私には分かりません。
日本の首相は広い国民の投票で選ばれるのではなく、狭い利権を持った政治家の利害関係で選ばれます。選ぶ方に国際的な視点がないのが最大の問題で、私は安倍さんの後継者に両手を上げて賛成できるような人物が登場するとは思っていません。日本の国会議員を現在の半数、あるいは三分の一に減らして、本当に尊敬されるようなエリートが議員になる体制になれば、真の愛国的なリーダーが生まれると思います。しかしこれは日本の諺で言う『絵に描いた餅』です。」
「せっかく達成された政治の相互関係も数年前のレベルまで下がってしまう」
ロシア科学アカデミー・極東研究所・日本調査センターのオレグ・カザコフ上級研究員はパンデミックが日露関係に極めてネガティブな爪痕を残したと考えている。
ポスト安倍時代に日露関係の展望については、カザコフ氏は次のように語っている。
「安倍氏は二国関係の改善、領土問題の解決、平和条約締結に本当に真摯な努力を払ったし、それがゆえに時に自身の評判さえ損なった。所属の政党でさえ彼を批判した。次の首相の立場はよりプラグマティックになるだろう。政治対話の幻想は減り、互恵的貿易経済関係により多くの注意が向けられるはずだ。二国関係が急激に悪くなるとは思わない。日本の政治は極めて慣性の法則が働いているので、冷却化はするだろうが、危機的なものではないだろう。新しい人間が独自の視点とアプローチを携えて登場する事態には備えておかねばならない。それでも平和条約締結の展望は霧の中に残されるだろう。双方はこの先も自国の見解を主張し続け、立場を変えず、誰も譲歩を望まない。1956年の日ソ宣言に照らして双方ともが宣言の独自の解釈を主張し続けており、妥協はまだ見られない。」