シリアへの人道支援物資、および医療物資はトルコをはじめとする周辺国から送られている。支援はいずれもトルコとシリアの前線や、2014年7月に開設された国境通行所を経由して行われている。この支援体制は毎年、国連安保理の決議で延長されてきた。この支援体制では国連の人道支援機関、およびそのパートナー組織はトルコとシリアの紛争地域に加え、バブ・エス・サリャム、バブ・エル・ハヴァ、エル・ヤルビヤ、アル・ラムタといった国境通行所を利用することができた。
国連安保理は2020年1月前半、人道支援体制を半年間に限って延長することを提案したベルギーとドイツの決議案を採択した。この決議案では国境通行所を当時有効だった4か所から2か所にまで削減することが盛り込まれていた。この結果、現在ではバブ・エス・サリャム、およびバブ・エル・ハヴァの国境通行所が開設されている。
一方、今回はシリア国内の情勢に変化が見られ、2カ所の国境通行所を維持する必要性はなくなったとして、ロシアと中国はベルギーとドイツの決議案に反対していた。
ロシア側の主張によると、シリア政府はこれまでテロリストらが実効支配していた地域を管理下に置いたことから、独自に支援物資を輸送する体制がすでに整っているという。そこでロシア側は人道支援体制を継続するうえで、トルコとの国境に位置するバブ・エル・ハヴァの国境通行所のみを半年間に限り残すだけで十分としている。ロシア側によると、シリア北西部イドリブ県に持ち込まれる人道支援物資の約9割がバブ・エル・ハヴァの国境通行所を通過しているという。また、この支援体制は一時的な性格のものとして構築されたものであることもロシア側は指摘している。
また、中国側は欧米がシリアに対して一方的に実施する経済的、人道的制裁により国内は危機に陥っているとし、決議案に制裁の中止を盛り込むよう要請していた。しかし、提示された決議案には制裁解除の要請が反映されていないとし、中国は決議案に拒否権を行使した。
これに対し、米国、英国、フランスは国境通行所の削減に反対している。人道支援を継続するにはこの決議の有効期間を延長する必要がある。
バブ・エス・サリャムとバブ・エル・ハヴァの開設期間は2020年7月10日で終了するため、先にベルギーとドイツは開設期間を1年間延長させる決議案を用意した。当初の決議案では、新型コロナウイルスのパンデミックにより、人道支援を拡大する必要があることから、すでに閉鎖されたエル・ヤルビヤの国境通行所も2021年1月10日まで開設することを盛り込まれていたが、この計画は決議案に採用されなかった。
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