7月11日、史上初のISUスケーティング・アワードの受賞者が発表された。この賞はそのシーズンの功績に対してフィギュアスケート選手個人に贈られるものだ。最優秀衣装賞を授賞したのはアメリカのマディソン・チョック/エバン・ベーツ組である。アンナ・シェルバコワと羽生結弦もノミネートされていた。
派手すぎず、露骨すぎない。衣装はどうあるべきか。
ISUのルールには氷上に出るときの選手の外見についても規定している。第F章には次のように書かれている。「ISUチャンピオンシップおよび国際大会での衣装は控えめでスポーツ大会に相応しいものでなければならない。派手すぎず、目立ちすぎないもの。ただし、選択した音楽を衣装に反映させてもよい。」同じ章の少し後には次のように書かれている。「・・・ただし、パートナーの衣装はスポーツ大会に相応しくない過剰な露出を印象づけるものであってはならない。」
トゥクタミシェワのスチュワーデス、ザギトワのキャットスーツ
欧州選手権2019ではアレクサンドラ・ステパノワ/イワン・ブキン組が銀メダルを獲得し、エキシビションに招待された。アーラ・プガチョワの抒情的な歌『The Candle Was Burning』に合わせたナンバーはステパノワの衣装で注目を集めた。黒の半分透けた薄い生地が体にピッタリ沿う衣装は動きやすかったかもしれないが、ステパノワはほとんど裸に見えた。
アデリナ・ソトニコワは2012年のフリーで、上半身がステパノワの衣装に似たドレスを着た。同じように半分透けた生地で、裏地も同じように肌色で、同じように裸みたいだった。ソトニコワ当時16歳だったため、この衣装が本当に適当なのかという疑問が観客たちの心に残った。
ザギトワがオリンピック金メダリストになる前に披露したもうひとつの大胆な衣装も、ファンの間に複雑な感情を生んだ。2017-2018シーズンのエキシビションプログラム「火のプリステス(女神官)」のトラの衣装のことである。今やスタイルアイコンである彼女が、かつてこのようなイメージで氷上に上がっていたとは想像しがたい。
ここで別のロシア人選手、イリーナ・スルツカヤを思い出してみたい。2005年に彼女もラテックス製のキャットスーツに身を包んで登場し、センセーションを巻き起こした。スルツカヤの衣装には、さらに顔の上部を覆う黒いマスクと耳がついていた。
世界チャンピオンのエフゲニア・メドベージェワも大胆な衣装で氷上に上がるチャンスを逃さなかった。クリスチャン・コストフの曲『Beautiful Mess』に合わせた彼女のエキシビションプログラムにファンは激しい議論を繰り広げた。18歳のメドベージェワは黒のスリップに男性用の白シャツを羽織って登場したのだ。演技中には羽織った白シャツが風にたなびいた。メドベージェワは後になって、新しいエキシビションプログラムはすべて自分のアイデアだと語った。
これに劣らぬ激しい議論を呼んだのがソウルのFantasy on iceでのメドベージェワの衣装だ。ファンの中にはショッキングピンクのミニスカートと丈の短いトップスが気に入らない人もいた。タチアナ・タラソワさえもメドベージェワを弁護したほどだった。
フィギュアスケートの世界を更に興奮させたのが23歳のエリザベータ・トゥクタミシェワがブリトニー・スピアーズの曲『Toxic』に合わせて披露したエキシビションプログラムである。このプラグラムでトゥクタミシェワはスチュワーデスの役を演じ、聴衆に丁寧に飲み物を届け、途中で上着を脱ぎ捨ててブラ1つになる。ファンと専門家は、このパフォーマンスに感銘を受けた人と、露骨すぎると批判する人の2つに分かれた。
ストリップナンバーは最多の賞を授賞したロシア選手エフゲニー・プルシェンコにもある。世界選手権で初優勝した後、バンクーバーで初めて披露したフリープログラムSexbombである。プルシェンコは氷上で服を脱ぎすて、ほとんど裸の男性のコスチュームになるというストリップショーを繰り広げた。
世界チャンピオンの荒川静香は2006年に最も大胆な衣装のひとつで登場した。トリノで彼女はオリンピック金メダリストになったが、そこで最もスキャンダラスなエキシビションを披露した。
コーチのニコライ・モロゾフの指導を受けたことは女子シングル世界チャンピオンの安藤美姫に影響を与えた。露出の少ないクラシックな衣装は、赤いレザーのブラとメッシュのトップスに置き換わった。2009年のロステレコム杯では女子校生の制服のスカートを思わせる大胆な衣装で登場し、1位の座をかっさらっていった。
欧州選手のショッキングなプログラム
2002年のソルトレイクシティ五輪でイタリアのバーバラ・フザール=ポリとパートナーは露骨な衣装で皆を驚かせた。ルールにも定められている通り、彼女はスカートを履いていたが、そのスカートが完全に透けていたのだ。プログラムを通して、下着1枚で演技しているように感じられた。
2012-2013シーズンには、フランスのナタリー・ペシャラ/ファビアン・ブルザ組がショートダンスで挑発的なフレンチカンカンを披露した。ペアは同じプログラムでグランプリファイナルでは3位になったものの、世界選手権では6位に甘んじた。その代わり、ダンスは多くの人の記憶に刻まれた。演技中に常に意識的に下着を見せるのを嫌いだという人も多かった。
別のフランスのペア、ガブリエラ・パパダキス/ギョーム・シゼロン組の場合、平昌五輪で運命が別の展開を見せた。ペアのプログラムにストリップの要素は一切入っていなかったものの、パパダキスの衣装が途中で裏切ったのだ。ラテンダンスが始まった最初の数秒で衣装のフックが壊れてしまい、その後の動きのすべてが彼女を上半身裸にしてしまいかねなかった。パパダキスはショートプログラムの後、「最低の悪夢がオリンピックで起こった」と語った。2人は最大のライバルであるカナダのスター的ペア、テッサ・ヴァーチュー/スコット・モイア組に次いで2位となった。
フィギュアスケートの人種主義反対運動
フランスのスルヤ・ボナリーは5回連続で欧州チャンピオンになったにもかかわらず、オリンピックや世界選手権で優勝したことは一度もない(彼女の最高成績は銀メダル)。彼女は2位になったときのインタビューで、勝利のためにできることはすべてやったが、自分の肌を白色に塗るのを忘れたと発言した。彼女にとって最後のオリンピックだった1998年の長野五輪では、自分に対して常に不公平だった(と彼女が考える)審査員への抗議のしるしとして、禁止されていたバックフリップを跳び、観客から大きな声援を得た。