自民党総裁選、本当にこのやり方でいいの?デジタル化推進するも、実現しないネット選挙

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8日、安倍晋三首相(自民党総裁)の後継を選ぶ自民党総裁選が告示され、14日の両院議員総会における投開票に向けて選挙戦が始まった。しかし、党員投票は行われず、さらには菅義偉官房長官の圧倒的な勝利がほぼ確実であるため、盛り上がりには欠けている。党内の選挙とは言え、実質は日本のトップを選ぶ選挙である。この選挙のやり方は、果たして適切なものなのだろうか。スプートニクは、日本政治と選挙制度に詳しい東北大学情報科学研究科の河村和徳准教授に話を聞いた。

党員投票は実施されないが、各都道府県連に3票ずつが割り当てられているので、一応、地方票はある。この3票を誰に投じるか、ほぼ全ての県連が独自の党員投票や予備調査を始めた。それならば、最初から党員投票をした方がイメージが良かったはずだが、そうしなかった理由について河村氏は「派閥の都合」と指摘する。

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河村氏「自民党だけではなく、かつての民主党も、地方(地方議員や党員)が選びたい党の顔と、国会議員が選びたい党の顔が乖離する傾向があります。石破・岸田以外の派閥の領袖たちにとってみると、派閥の力学で総裁が決まった方が、派閥の求心力を維持できるというメリットがあります。とりわけ、二階幹事長にとっては党員投票をしない判断をしたことで、新総裁や派閥の領袖に恩を売れるという大きなメリットがあったのだと思います。そうした自民党幹部たちの都合が、党員投票をしない判断を後押ししたと思われます。

もちろん、かつて小泉純一郎総裁が誕生したときは、地方票が鍵になりました。地方の支持が高い石破さんが仮に全体で負けても、地方でかなりの得票をすれば、石破さんの党内の発言力はむしろ高まります。そうした波乱を警戒したこともあると思います。」

自民党執行部が強引に党員投票の省略を決めたことには、小泉進次郎環境相、小林史明青年局長をはじめ、内輪からも異論が噴出した。通常時であれば国会議員票は394票、党員・党友票も394票で、バランスが取れている。しかし今回の簡易版総裁選では、国会議員票が394票、地方票が141票で、トータルの票数は535票である。

河村氏「事実上の総理大臣を決める選挙に参加できることは、自民党員となる大きなメリットでした。また今回の簡易型総裁選の実施という意思決定は「密室的」で、地方議員や党員・党友を無視していると映りました。各県連が自主的に予備選を行う判断を下したのは、党員・党友と向き合う機会が多い県連幹部たちが、不満に思う党員・党友からの突き上げを意識し、危機感を感じたことが大きいと思います。自民党の国会議員と地方組織の間に隙間風が吹いていることを示唆していると思います。

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なお、簡易型になったことで二階さんの功績があまりにも大きくなりすぎた結果、二階派と、細田・麻生・竹下の3派の間で新総裁誕生後の人事等をめぐってのさや当てが始まりました。管さんがそれぞれの派閥との距離をどうとるかが、この1か月の間の政治を見る大きな視点になりそうです。」

派閥からの支持を受けながらも、自身が無派閥であることを強調する菅氏。3日の記者会見では派閥について「悪い面が出すぎたら、そこは注意する必要がある」と述べ、7日の朝日新聞のインタビューでは「各派閥からの要望は受け付けない。事前に打ち合わせなどはしない」と表明したが、果たしてその通りになるかどうかは、注目すべきだ。

石破氏の政治生命、かえって伸びた?

総裁選が簡易版になったことで、最もメリットがあったのは誰だろうか。河村氏に候補者3氏の立場を分析してもらった。

河村氏「簡易版は国会議員票が選挙結果を大きく左右することになりますが、簡易型にせずとも、管さんが有利であったと思います。「勝ち馬に乗りたい」心理が働く可能性が高いからです。一般的に、今回、簡易型になったから「地方で人気があった石破さんにとって圧倒的に不利になった」という指摘がなされますが、これは正しいことかと思います。

しかし、石破さんにとってみれば、簡易型になったことによって「負けた言い訳がたった」という点は押さえておく必要があります。正直なところ、石破さんの政治的な息の根を止めたいのであれば、正式な形で総裁選をし、圧勝するという選択肢を採るべきだと思います。石破さんにとって見れば、短期的に見たら不利になったけれども、とりあえず次がある状況を得たと言えるかと思います。(もちろん、地方でもかなり票がとれなければ次はありませんが)小泉純一郎が総裁選で勝利したときのように、党員投票をすると、新総裁が行う人事で派閥の影響力を十分誇示できないことの方が、大事だったのではないかと思います。

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岸田さんにとってみれば、マスコミによる有権者調査の結果ではなく、自民党員・党友の支持の程度をはかる挑戦の選挙になります。もし、地方である程度の票が取れなければ総裁候補どころか、派閥の長から転げ落ちる状況に追い込まれると思います。」

進まないネット投票

コロナ禍で日本でもかなりリモートワークが普及した。出馬表明後の演説会で菅氏は、ポストコロナにおけるデジタル化の必要性とデジタル庁の創設を訴えたが、自民党には総裁選でオンラインを活用する発想は全くなかったようだ。その原因について河村氏は次のように話している。

河村氏「自民党の総裁選でネット利用が進まない大きな理由として、1)郵便に対する日本国民の信頼が高い、2)自民党は年功序列ルール(Seniority rule)を重んじる、3)自民党という組織が分権型(フランチャイズ型)の組織となっている、の3点があると思います。

日本の郵便はほぼ期日通りに配達されますし、国民の信頼も高いので、新しいネットのシステムを構築することの費用対効果を比べると、「郵送投票すれば良い」という判断が出やすいと思います。

また自民党は、高齢の支持者が多いため、情報通信技術に対する忌避感がある彼らの投票権を保障しようとすると、ネット投票の導入は躊躇しなければならないという事情があります。それが、比較的支持者層が若い維新などとネット利用の差となって表れていると思います。加えて、自民党の政治家が総じて高齢で、ネットに強くないことも影響しています。IT担当大臣が「ネットを使っていない」と答弁するぐらいですから。

また、一般的に、ネット投票のシステムを構築しやすいのは、比較的小規模で中央集権的な政党だと言えます。しかし、自民党は、政治家の後援会会員や、自民党を支援する団体の職員が自民党の党員・党友となる、分権的な政党です。党中央が党員・党友を一元管理しづらいため、ネット投票のシステムをいれづらいと言えるかと思います。」

正規の党員投票をしようと思えば、投票資格を確認する作業に時間をとられ、準備に2か月かかるという。しかし予備選がスピーディーに実施されている以上、その説明には疑問が残る。党員に「自分たちは軽視された」という感覚が残れば、将来の内閣支持率低下にもつながりかねず、かえってマイナスだ。新総裁の任期は、2021年9月まで。声高にデジタル化の必要性を訴えるならば、次の総裁選では、デジタル技術を活用してより公平感・納得感のあるシステムを作り、ゆくゆくはその他の選挙にも活用していくのが良いのではないだろうか。

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