キッシンジャー氏は、現在、テクノロジーの進歩が国際情勢を変え、二大大国の対立をもたらしたとし、中国と米国が次第に冷戦状態に陥っていることに懸念を表した。
ヘンリー・キッシンジャー氏といえば、米中の国交正常化のために尽力した人物である。リチャード・ニクソン大統領の下で、国務長官を務め、1972年に数十年ぶりに行われた歴史的な米中首脳会談の準備にも直接関わった。
他でもないこの首脳会談が米中国交回復の始まりとなった。ニクソン元大統領は、米中協力路線をスタートさせ、これが現在の2つの大国の経済の密接な関係へと発展した。
しかしながら、現在の米国政権はニクソン元大統領が始めた路線は誤りだったと考えているようである。マイク・ポンペオ現国務長官が今年7月に、リチャード・ニクソン博物館の演台で行なった演説「中国共産主義と自由世界の未来」も厳しい内容であった。この演説の中で、ポンペオ長官は、1970年代末にとられた中国との協力路線は過ちであったと公言している。「習近平国家主席が夢見る中国の世紀ではなく、自由な21世紀を手にしたいなら、中国にやみくもに関与するという古い枠組みではそれを実現することはできない。こうした枠組みを継続してはならないし、そこに戻ってもいけない」と述べた。
第一次世界大戦前の状況と似通っているのは、世界の大国が一定の速度で自国の軍事力を増強しているという点である。20世紀の初頭には、大英帝国が、増大するドイツの軍事力を認めることができず、両国の地政学的利益が衝突するようになったが、現在の中国人民解放軍の軍事力の増強が米国の憂鬱の原因となっていることは明らかである。中国は現在、軍用艦の総数においても、新たな艦隊の建設のスピードにおいても、また特定の種類の兵器の数においても、米国を上回っている。しかし、米ソの冷戦と異なっているのは、中国と米国の間には、軍と軍の関係を調整するそれほど効果的なルートが作られておらず、軍事力抑止の経験も不十分である点である。したがって、現在の米中関係は非常に危険なのだとワシリー・カーシン軍事専門家は指摘する。
「南シナ海の問題はかなり深刻な性格のものとなっています。第一次世界大戦前夜と同じように、軍事力の相関関係の変化が続いていることが大きな要因です。中国は米国よりもはるかに急速に軍事力を増強しています。中国が核戦力拡大への道を歩き出し、2030年初頭には第3の核大国になる可能性があるということも重要な要因です。しかも、ソ連と米国とは異なり、中国と米国の間には、軍事機関を調整するそれほど効果的なルートがなく、軍事力抑止の十分な経験もありません。また戦略的安定に関する問題をめぐる対話も限定的です。結果として、今後数年は非常に危険な時期となります。事態を深刻化させないことがきわめて重要です」。
複数の専門家が、大統領候補であるジョセフ・バイデン氏が政権に就けば、米国の政治路線はそれほど激しいものではなくなるだろうと見ている。一方でこの論理は、歴史的に証明されているわけではない。米国が長期にわたる流血の軍事行動を行っていたのは、他でもない民主党政権下だったのだから。