バイデン氏はトランプ大統領よりも柔軟性があるのか?
菅首相とバイデン氏の電話会談は、11月11日から12日にかけてワシントンで開かれた在日米軍の駐留費の負担問題に関する日米間協議を背景に行われた。現行の在日米軍駐留費用に係る特別協定は2021年3月でその期限が切れることから、両国は、日本の会計年度末までに、新たな予算について合意に達する必要がある。
日本は、バイデン氏が、この問題をめぐり、これまでトランプ大統領がかけてきた圧力を弱めることを期待している。2020年の在日米軍駐留経費の日本側の負担額は1,993億円で、この中には基地の光熱水費や従業員の労務費、訓練移転費などが含まれている。
これより前、マスコミは、トランプ大統領が安保条約で定められた両国の義務について、一方的で公正を欠いたものだとしてこれを批判し、日本に対し、4倍以上の負担額の増加を求めたと報じていた。またマイケル・ポンペオ国務長官やジョン・ボルトン前国務長官もこれを認める発言を行っていた。ちなみに当時、官房長官を務めていた菅首相は、この問題をめぐって正式な協議は行われていないことを明らかにしていた。一方、今回の合意について、専門家らは通常の5年ではなく、期間1年の暫定合意が結ばれる可能性を指摘している。
「米国にお金を支払って安全を守るか、自力で安全を確保するか」
バイデン氏は、大統領に就任したあと、日本との関係についてどのような立場を取るのか、また在日米軍の経費負担の増加を強く要求してくるのか、「スプートニク」は米国・カナダ研究所の主任研究員、ウラジーミル・ワシリエフ氏に取材した。「オバマ政権時代、同盟国に対する立場は、米国の主導的立場を認め、米国の政策に従っていれば、費用の増額は求めないという公理に基づいたものでした。そしてそれは在日米軍についても同様でした。しかしトランプ大統領は友好は友好、費用は別問題という見解を表しました。つまり、トランプ大統領は、米国の主導的立場は皆に認められた前提条件で、同盟国は安全保障に対して完全に支払う義務があると考えていました。バイデン氏はおそらく、オバマ時代の立場に戻したいと考えているでしょう。一方で、米国の経済状況は大きく変わりました。予算は崩壊の危機に瀕し、債務は対GDP比で237%を超えています。そしてここで問題が生じるのです。バイデン陣は米国民にあまりに多くのことを約束しています。つまり、経費を削減せず、公約を反故にするのか、あるいは同盟国との関係を商業化するというトランプ大統領の政策を維持するか、どちらかを選ばなければなりません。日本では、すでに1年以上前から、自衛隊を軍隊にする、あるいは核武装するといった話が出るようになってきています。しかし、これを実現するためには巨額の費用が必要です。そこで日本は安全を守るために米国にお金を支払うのか、あるいは自力でその安全を保障するのか、計算しなければならないのです」。
「予想外の変化はない」
一方、モスクワ国際関係大学のドミトリー・ストレリツォフ教授は、日米関係にはもう1つ別の局面があると指摘している。「オバマ時代には、米国と日本の関係に危機はなく、良好な関係が築かれました。おそらく、バイデン氏もそれを継続したいと思っているでしょう。ですから、日米関係に意表をつくような予期せぬ変化はないでしょう。バイデン氏は、トランプ大統領のように常軌を逸した行動をとったりするようなタイプではなく、また市での商売のような交渉を行おうというタイプでもありません。ちなみに、わたしは、在日米軍の問題に関して、トランプ大統領は駆け引きをしていたのだと思います。日本が駐留費の増額を承諾するはずがないと知っていて、貿易交渉で追加的な譲歩を得ようとしたのです。日本側の負担は変えず、米国は日本製自動車の関税引き上げの権利を得ようと考えていたのでしょう。時とともに米国の予算が厳しくなれば、アジアに駐留する米軍の存在も弱まってくるでしょう。ですから、日本と米国はいま、日米豪印の「4カ国」で協議を行うことに大きな関心を持っています。10月半ばに、安倍首相が辞任した後、東京で開かれた4カ国の閣僚級会議は、日本が依然、この新たな枠組みを重要視していることを物語っており、これを“アジアのNATO”と名付けている人もいるほどです。これは、米国の大統領が誰になっても変わることはないでしょう」。
菅首相の米国訪問、そしてバイデン氏との会談は、大統領就任式が執り行われた後の2021年2月に予定されている。