モスクワの新トレンド「チシンカ」とは?
フードコートと言うとファーストフードをイメージしがちだが、モスクワのフードコートは一味違う。モスクワでは、古くからある市場をリノベーションして、最先端の個性的なレストランを集めたフードコートを併設する流れがあり、流行に敏感な若者たちが集うスポットとなっている。チシンカも例外ではなく、今秋に「Tishinka Gastro Hall」としてスタートした。
ここには「SENDAI」以外にも、インドやタイなどのエスニック系、生ハム専門店、オイスターバーなど、おしゃれなお店がたくさん入っている。それぞれの店のカウンターに座ってもよいし、あちこちの料理をオーダーして、共有スペースで食べ比べてもいい。ホール内にはステージもあり、コロナが落ち着けば、著名人の講演会やコンサートなど、様々なイベントが行われる予定だ。
「SENDAI」開店に至るまで
「SENDAI」の共同創業者で、日本の食材をロシアに届けるビジネスに長年携わってきた村田知義さんに話を聞いた。和牛専門店を開くアイデアは、村田さんと、宮城県で黒毛和牛の肥育・販売を手がける「うしちゃんファーム」の佐藤一貴社長がモスクワで出会ったことからスタートした。
まだロシアでコロナが全く危険視されていなかった今年1月、チシンカから出店のオファーがあり、即決するというダイナミックな展開となった。
村田さん「その日のうちに、ちょうどモスクワを訪れていた佐藤社長と下見に行き、その場で決定しました。本来なら、6月には チシンカがリニューアルオープンする予定でしたが、コロナの影響で工事が延び、10月初めにオープンにこぎつけました。」
ロシア人が好きなメニューとは?
「SENDAI」で提供している和牛は、もちろん「うしちゃんファーム」のもの。丸ごと1頭分、約350キログラムを仕入れているので、様々なバリエーションの料理ができる。村田さんによれば、ロシア人と日本人では、好みのメニューには違いがあるそうだ。ロシア人は、サーロインやリブアイの部位をステーキで食べるのが好きだという。
村田さん「和牛のひき肉を使ったハンバーグもありましたが、ロシア人は「ハンバーグは外で高いお金を払って食べる料理ではない」と考えているようで、反応はイマイチでした(笑)。ただ今後も、調理方法や提供の仕方を考案して、ひき肉料理を使った料理を出したいと考えています。焼肉やしゃぶしゃぶ、せいろ蒸しなど、ステーキ以外の料理を力を入れて広めていきたいです。」
思ったより人気が出たのは、和牛握り寿司やユッケなど、生肉を使った料理だ。要望があれば、少しあぶって提供する。握り寿司を初体験したロシア人のお客さんは、「日本人は何でも寿司にする、なんて冗談で言うことがありますが、本当に肉の寿司が存在するとは思いませんでした。生肉と、あぶったのと両方試してみて、生肉の方が意外とすごく美味しかったです」と話してくれた。
ロシアの牛肉事情
ロシアで一般的に出回っている牛肉の質は、ここ数年で飛躍的に向上した。「ミラトルグ」「プライムビーフ」といったロシア産牛肉ブランドの成長により、ステーキレストランが増え、スーパーでも、十分に美味しい家庭用ステーキ肉が買えるようになった。
村田さん「健康に良いという理由でこの10年ほどは寿司やシーフードの人気も高いですが、ロシア人が昔から馴染んでいるのは肉で、ロシアはやはり肉料理が大好きな国だと思います。和牛はもちろん、ロシアの肉に比べて価格は高いですが、肉の味に関しては普通のアメリカ産やロシア産とは全く違うので、その意味では差別化が図れていると思います。一頭買い等で輸入コストを下げ、安くとは言えませんが、お手頃価格で提供できるように努力していきます。」
コロナ禍で日本への帰国がままならないモスクワ在住の日本人にとって、「SENDAI」は心と胃袋の癒しだ。日本人のお客さんは「この味がモスクワで食べられるとは思わなかった」と口を揃える。また「SENDAI」は、モスクワ屈指の寿司職人セミョーン・シンさんが手がける寿司店「Kosyak」と一体となっており、和牛と海鮮が同時に堪能できる。
今はほとんど宣伝をしていないので、お客さんの割合はロシア人が6割、日本人が4割だ。村田さんは「今後はロシア人のお客さんにもっと来ていただきたいので、8:2くらいまでになるのが理想です」と話している。メニューは随時開発中で、うしちゃんファームのブランドシェフの訪問なども予定されている。