政治学者で作家の佐藤優氏は、最近発表した論文の中で、「エネルギーの地軸」が中東ベースからロシアベースに移行する可能性があると指摘している。そうなれば、北極圏はロシアと日本の利益が合致する地政学的な意義を持つ重要な場所となる。
「スプートニク」は、この地球温暖化の時代に、ロシアと日本の関係における「気候」を変化させることができるのか、またそれに影響を与えるのはどのような要素なのか考察してみた。しかしここで重要なのは、急激に「温暖化する」国際舞台で、中国がどのような役割を果たそうとしているのかということである。
北極圏の資源のほとんどはロシア領海の海底地下に眠っている。さらに砕氷船の保有数でもロシアはトップに位置している。
しかし、歴史学博士で国際関係および日本研究の専門家であるドミトリー・ストレリツォフ氏は、北極海航路に関する世界の期待は誇張されすぎていると指摘する。
そこで日本は北極海航路にそれほど重点をおいておらず、ロシアによる北極圏のガス田開発プロジェクト「アークティック(北極)LNG2」への投資にも慎重な姿勢を見せており、北極海航路も南回り航路の代替となる可能性があるものとは捉えていないとストレリツォフ氏は指摘する。
一方ロシアは、上述のような制限が、近い将来、北極海航路を確立するためのグローバルな計画の障壁になるとは考えていないようである。ロシアは原子力砕氷船を保有する世界で唯一の国であることから、北極海航路を、季節に依存するものとは考えていない。原子力砕氷船は、1年を通して氷に覆われた海上を航行することができる。トン数も障壁にはなりえない。というのも、ベーリング海峡の航路の最浅部は36メートルだが、スエズ運河の深さがわずか20メートルであることはまったく問題になっていないからである。
北極海航路はアジアとヨーロッパを最短でつなぐルートであり、輸送期間を数週間短縮し、船舶の燃料費も節約することができるものである。たとえば、ワシントンポスト紙は、サイトsearchoutes.comのデータを引用し、ユージナヤを出航した船がスエズ運河を通ってドイツに到着するのは34日かかるが、北極海航路だと23日まで短縮できるとし、北極海航路の持つ意義を強調している。
「このルートの大きなセールスポイントは航行時間である。サイトsearoutes.comによれば、韓国から、南アフリカの喜望岬を経由してドイツに到達するには平均で46日かかる。これをスエズ運河を通過すれば34日would be 34 days。北極海航路を利用した場合は23日になる」。
さらに忘れてはならないのが、日本がつねに中国との競争を重要視している点である。日本の投資への「恐怖心」は、日本を北極開発におけるアウトサイダーにする可能性がある。
「2018年、バルダイ国際討論クラブの会合で、中国は北極海航路とシルクロードを連結するという一大イニシアチブを表明し、中国の政策の中には、“氷上シルクロード”という新たな用語が生まれました。この中国のイニシアチブの中には、原子力砕氷船の建造において、ロシアの経験を大いに活用するという方向性が含まれています。中国はすでに中型の砕氷船雪竜2号をすでに進水させており、初の原子力砕氷船と砕氷タンカーの建造を進めています。また極東の造船所“ズべズダー”やプロジェクト“アークティックLNG2”への投資も行なっています」。
「一路一帯」政策に組み込まれた北極圏輸送路「氷上シルクロード」は、ロシアと中国をより接近させ、ロシアが中国との地政学上の利益のバランスを維持するものである。
佐藤優氏は論文の中で、ロシアは北極圏からウラジオストクまでの往復を、タタール海峡(間宮海峡)を通って、自国の国境に沿ったルートで行うことを希望しているものの、タタール海峡は浅いため北極海を航行する船が通れないことから、ロシアは日本領に近いラペルーズ海峡(宗谷海峡)またはサンガルスキー海峡(津軽海峡)を通過することになると指摘している。そしてこれも露日関係が改善される一つのきっかけとなるというのである。
ロシアは日本の投資を必要とはしている。しかし、佐藤優氏のいう「日露友好のモチベーション」は少々、奇妙に感じられる。というのも、タタール海峡を通過して北極圏に入るルートは非常に「蛇行した」ものになるからである。ロシアの砕氷船は直進しかできないため、ロシアにとってはそのようなルートを選ぶ意味はないのである。しかもラペルーズ海峡を通った方が距離もはるかに短い(しかもロシア領海を経由する)。そしてそのために日本からの許可を得る必要などないのである。