この情報を受けてスプートニクは、このプロセスによって事故原発にさらに危険な状況が誘発される恐れがあるのか、専門家らに見解を尋ねた。
そもそも論文の 「『火鉢の中の焼け木杭』 チェルノブイリで再びくすぶる核反応」( ‘It’s like the embers in a barbecue pit.’ Nuclear reactions are smoldering again at Chernobyl)というタイトル自体、脅威を呼び起こす。この、 英国シェフィールド大学の化学者ニーラ・ハヤタ氏で発表した論文は大きな憂慮を招いた。
予期せぬ何かが起きているのか?
原子および原子力エネルギーに関する逐次電子刊行物AtomInfo.Ru のアレクサンドル・ウヴァロフ編集長は、現時点でチェルノブイリ原発では恐ろしいことは何も生じていないという見解を保持している。
ロシア科学アカデミー、原子力エネルギーの安全開発問題研究所の研究者らも事故原発内では新たに恐ろしいことは一切起きていないという見解を示している。
「核燃料は未使用のものでも、再処理用のものであっても中性子の生成と共に核分裂反応があるのが普通です。だってどんな核燃料貯蔵庫でも突然分裂が起きることでの中性子の流れはあるんですから」
チェルノブイリ原発の新たな脅威についてのニュースが報道されると、ロシア科学アカデミー、原子力エネルギー安全開発問題研究所の広報部はこうしたプレスリリースを出した。
雨水は危険?
「サイエンス」に論文を発表したニーラ・ハヤタ氏は鉄筋コンクリート製の石棺(災害から1年後に損傷した4号基を封じ込めるために作られた構造物)は建造当時にすでに雨水の浸透を許していたとの見方を示している。
チェルノブイリ原発の状況悪化に決定的な悪役を演じているのは水なのだろうか。ウヴァロフ氏はこれについて、雨水が影響する恐れは事前に予測可能であったことから、これに関しては原発の状況はコントロールされているはずとの見方を示している。
このことからウヴァロフ氏は事故施設への補足的なモニタリングや(サイエンスの論文も含めた)科学者らの注意のまなざしが無益になることは絶対にないと考えている。だがパニックに陥ったり、事故施設に再びカタストロフィーが迫っていると結論付けてはいけない。ロシア科学アカデミー、原子力エネルギー安全開発問題研究所のイーゴリ・リンゲ副所長(原子力・放射性安全問題情報分析サポート担当)もこの点を確証している。
「大災害が起きる事態にはなりえません。中性子はゆっくりと増え続けていますから爆発が起きる事態など、現時点では危惧する必要はありません。
さらに、水があることで、核分裂プロセスの集中度が高まったり、逆に燃料を含む塊と中性子検出器の間のバリアーの保護特性が高まったりします。このように、2つの相反するプロセスが同時に存在しています。現時点でこうしたプロセスのうち、どちらがより優勢なのかを正確に把握することはできますが、それが出来るとすればプロセスの強度が極めて高い場合だけであり、実際はそんなふうには現れていないのです」
ロシア科学アカデミー、原子力エネルギー安全開発問題研究所の専門家らは、「チェルノブイリ原発に関するサイエンス誌の論文へのレファレンス」を発表し、遺憾ながらサイエンス誌掲載の論文には起きているプロセスの強さについて、それに基づいて結論を導きだすことのできる(中性子束密度といった)測定の具体的な数値の結果が含まれていないと指摘した。 サイエンス誌掲載の論文に基づくと、仮に状況が介入を必要とする状態になるとしても、そこまでエスカレートするにはさらに何年もかかるという帰結が得られる。
サイエンス誌は、ウクライナのキエフにある原子力エネルギー安全問題研究所に勤務するマクシム・サヴェリエフ氏の弁を紹介している。サヴィリエフ氏は、「多くの不確定要素があり、(事故の)危険性を完全に除去することはできない」と語っている。
サヴィリエフ氏は同時に、中性子の数がゆっくり増えていることから、マネージャーらには脅威を抑制する方策を思い付くためにまだ数年あるとの認識を示している。
とはいえ、10年前の福島原発事故の後処理に追われている日本にとってみれば、いかなる「発明」手段でも大きな関心事となる。その理由についてサヴィリエフ氏はハヤタ氏が論文の一説を引用し、「類似した規模の脅威」だからだと指摘している。
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