ワクチン接種拒否は罪か?
「新型コロナワクチンを拒否する人たちは、生涯償う必要のある罪人になる」。テレビ番組「ロシア24」の中で、モスクワ総主教で対外教会関係局長を務めるヴォロコラムスク府主教イラリオンはこのような見方を示した。
こうした立場についてイラリオン府主教は、危険なパンデミックにおいて、人は自分自身の安全だけでなく、感染させる可能性のある人々の健康にも責任を負っているからだと説明した。
スプートニク通信は、歴史・宗教学を専門とするロマン・シランチエフ氏にコメントを求めた。同氏は、歴史的な時代に関わらず、医療に偏見をもつ人は常にいたと話す。
「新型コロナが発生した理由についての様々な陰謀論なども、現在の反啓蒙主義に含めることができます。陰謀論の中でももっともよく聞かれるのが、ワクチンにはチップが含まれていて、人々を管理しようとしているというものです。そしてかなり多くの人々がインターネット上で急速に広まっているこうした陰謀論を信じています。ですからイラリオン府主教の発言を通して、教会はワクチン拒否は危険で誤った行いであると言うことを人々に理解させると言う使命を遂行しているのです」。
各ケースに個人差
一方で、蘇生医でもありロシア正教会修道司祭のセルゲイ・セニチュコフ氏はスプートニク通信に対し、すべての人にワクチン接種の機会があるわけではないことを強調する。
「ワクチンの問題は医療の介入です。ワクチンの合理性は人それぞれで異なります。外科手術も、ある人には有効でも、ある人には有効ではないのです」。
ロシア正教幹部は、パンデミックのピーク時には教会へ通うのを一時中断するよう呼びかけた。モスクワの寺院は当局の指導により何度か閉鎖された。しかしコロナ禍の初期段階で多くの寺院が活動を続けたため、司祭は収入が欲しいのだと非難や批判の的となった。また司祭の中には、コロナウイルスの存在を認めず、信者で溢れる寺院の中で祭事を続ける者もいた。
現在、教会は訪問者の数を管理しようとしているが、聖職者のワクチン接種は任意である。接種拒否は罪であるという発言はあったものの、この問題に関するロシア正教会幹部の立場は変わっていない。
仏教とワクチン接種
スプートニク通信は、仏教徒がワクチン問題をどう捉えているかを知るべく、僧侶の鵜飼秀徳氏(ジャーナリスト/正覚寺住職/良いお寺研究会代表理事/東京農業大学・佛教大学 非常勤講師)にもコメントを求めた。
「仏教ではワクチン接種を拒否することを、罪とはみなしません。仏教とワクチン接種拒否問題を照らし合わせますと、一見、ワクチン接種拒否が「悪い行い」であり、仏教の説く「善い行い」に反しているように見えます。しかし、それは少し違います。「善悪」だけとってみれば、完全な善人などはこの世に存在しませんし、完全な悪人も存在しません。ワクチン接種拒否する人を、ひとくくりにして悪人ととらえるのはあまりにも「救い」がなさすぎます。ワクチンの副反応を恐れて、ワクチン接種をストレスに感じ、どうしても接種したくないという人は少なからずいるはずです。そうした人を「悪」と決めつけるのは、仏教の説く「寛容」「慈愛」「平等」の精神からは大きく逸脱します。ワクチン接種拒否が「他者の命に影響を与える=だから悪」という論理であれば、車の運転も同様ですし、政治家の判断は間接的には殺人行為にもなり得ますし、極端なことをいえば子供を産むことも社会的リスクになるでしょう。「不完全な人間だからこそ、救われる」のが仏教の教えです」。
コロナ感染者が増加する中、教会が重要な社会的機関としてワクチン接種問題やパンデミック対策について自身の見解を示すことは十分に論理的です。それでも、ワクチン接種を拒否することは罪だという極端な発言は社会に余計な緊張をもたらす可能性があります。そうでなくてもパンデミック対処法をめぐって社会は分断の方向に進んでいるのですから。聖職者自身も昨年は罪がなかったわけではないことを考えると、より抑えた見解のほうが、多くの利益をもたらしたかもしれません。