メディアに知られなければ、罪ではない?
1990年代、当時人気絶頂だった小山田圭吾さん(52)は、日本の音楽雑誌からのインタビューに応じた中で、障害のある同級生に本人の大便を食べさせたり、他の生徒たちの前で自慰を強要したりしたという。この恐ろしい過去の話は、何年も前の日本の音楽雑誌に印刷されたものであるが、今回、小山田さんが音楽を担当したオリンピックの開幕まで1週間というときになって、突如これが表に出てきたのである。
適切に判断してほしい。
— ぺぷ (@sm_wc6) July 19, 2021
いじめの内容↓#小山田圭吾の解任を求めます #小山田圭吾 pic.twitter.com/tJvSfGDQMl
インタビュー記事が掲載されたのは、1994年1月発行の「ロッキング・オン・ジャパン」(ロッキング・オン)と95年8月発行の「クイック・ジャパン」(太田出版)。
障害者の体を縛り段ボールに入れて突き落とし、人糞を食わせて暴力振るった過去を、反省としてではなく武勇伝として語ってしまう #小山田圭吾 が開会式の音楽の担当をする、そんな「平和」の祭典が始まります。 pic.twitter.com/HNdIq72WXQ
— ROCKinNET.com (@ROCKinNETcom) July 15, 2021
この衝撃的な告白が掲載されてからすでに30年ほど経過しているが、小山田さんは最近まで、このことを問題とは考えておらず、憤慨した読者が小山田さん自身や彼の息子、日本オリンピック委員会のTwitterアカウントに怒りのつぶやきで攻撃するようになるまで、謝罪をする必要があるとも、この間に自身の態度を改めたことを表明すべきだとも思わなかったのである。
小山田さんの辞任を求めるメッセージが数千件にのぼり、また世界でも数十の記事が掲載されたのを背景に、小山田さんはTwitterで、過去の行いを反省し、「不快な印象を与えてしまうことを心から申し訳なく思います」と呟いたが、その言葉が心から出たものであると信じるのは難しい状況となっている。
東京2020オリンピック・パラリンピック大会における楽曲制作への参加につきまして pic.twitter.com/WWedM9CJwK
— Cornelius (@corneliusjapan) July 16, 2021
被害者の苦しみと日本のイメージに対する打撃
小山田さんの過去のイジメが発覚したことは、世界中の彼のファンにショックを与えただけでなく、オリンピックに関与するさまざまな国の数百万の人々の心を傷つけることとなった。
「このような差別的で暴力的な行動を起こした者が、オリンピック・パラリンピックに参加するのに適した人物だと言えるのだろうか?」
→put cardboard on his heads and wrapped them with duct tape, putting chalk dust in it. How can a person who committed such discriminatory and violent acts considered qualified for getting involved in Olympic and Paralympic Games? #Tokyo2020 #Olympics2021 #小山田圭吾 #東京五輪
— yappli (@yappli3) July 16, 2021
この記事を執筆している時点で、Yahoo!ニュースへのコメントの数は1万件を超えている。そのうちのいくつかを紹介しよう。
「オリンピックで小山田の曲が流れれば日本は世界中に障害者にイジメしたことを容認した国として醜態を晒すことになる。ましてやパラリンピックで小山田の曲を流すなど常軌を逸している。」
「彼は被害者に対して謝罪し、それを受け入れてもらえているのだろうか?それであれば、組織委員会はそう説明すれば良いのにしていない。何故だろうか?」
関東地方の障害者スポーツ協会は、小山田さんは謝罪するだけでなく、懺悔の気持ちを表し、周囲の人々に、今の自分はもうあの頃の自分とは違うということを示す必要があったのではないかと指摘している。
雑誌「ロッキング・オン・ジャパン」に掲載された記事で小山田さんにインタビューを行った当時の責任者、山崎洋一郎氏は、その後、編集長になっているが、編集長はジャーナリストとしての過ちを認め、自身のブログで謝罪した。
同編集長は掲載誌が出た当時、自分が小山田さんのインタビューを行ったとし、「インタビュアーとしての姿勢、それを掲載した編集長としての判断、その全ては、いじめという問題に対しての倫理観や真摯さに欠ける間違った行為である」と記した。そして「傷つけてしまった被害者の方およびご家族の皆様、記事を目にされて不快な思いをされた方々に深くお詫わび申し上げます」と謝罪した。
社会が超えてはならない一線
小山田さんの今回の突然のイジメ発覚は、このような展開が待ち受けているとは思いもしなかったオリンピックの主催者たちにも少なからぬ打撃を与えた。
しかしこの後の小山田さんを擁護するような行動が、国内外で困惑を呼ぶこととなった。武藤事務総長は、小山田さんに役職から退いてもらう、あるいは小山田さんの楽曲の使用をやめる考えはないとの考えを明らかにした。「小山田さんには引き続き貢献してもらいたいと考えている」と述べた事務総長は、「現時点に置いて、彼は十分に謝罪し、反省をしている。また本人もより高い倫理観を持って行動したいと語っている」と付け加えた。
欧米諸国では、イジメの疑惑があっただけでも、たとえばスターは契約を破棄されるのはもちろん、人としての尊敬を失うことから、今回のような対応は理解されがたい。
しかし、残念ながら、オリンピック組織委員会も小山田さん自身も、現時点では、この行動が人間の尊厳を踏みにじり、善のイメージに矛盾することであり、それが謝罪だけで済まされない過ちであったことを認識していない。ここに、たとえ才能がある人間でも超えてはいけない一線があるように思われる。
苦難続きのオリンピック
延期が決まった東京五輪の開催がパンデミックの条件下で開催されると発表されてから、組織委員会がこのような騒動に巻き込まれるのはこれが初めてではない。
しかし、その1ヶ月後、オリンピック・パラリンピックの開閉会式の企画・演出を総括していたクリエイティヴ・ディレクターの佐々木宏氏が、開会式で女性タレントの渡辺直美さんにブタの衣装を着せるなどという演出案を出したことから、辞任することになった。
そして1週間ほど前には、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ会長が、東京で開いた記者会見で日本人を中国人と言い間違え、大きな批判を呼んだ。
東京五輪はもともと、自然に対しても、そして周囲の人々に対しても、あらゆる意味で世界一環境に配慮したものにすると謳われていた。今回のオリンピックのコンセプトに、「多様性と調和」という価値観が込められているのも偶然ではない。まもなく開幕を迎えるオリンピックが滞りなく、計画通りに開催され、参加者たちは尊敬と安全策を忘れずにいてくれるよう期待したい。
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