1年ほど前、菅義偉氏が首相の座に就いたとき、露日の政治対話はかつてのような論調に戻ることになった。安倍晋三前首相がつないでいた南クリル諸島問題の早期解決に向けた望みは断たれてしまったのである。そして日本からは再び、4島の帰属の問題を解決した後、ロシアとの間で平和条約を締結する必要があるという聞き慣れた主張が聞かれるようになった。
一方、ロシアでは、隣接する国との国境画定作業を除くロシア連邦の領土割譲の禁止を条文に盛り込んだロシアの憲法改正案が採択されたことで、北方問題解決に向けたアプローチにも影響が及んでいる。露日の国境は国家間の協定レベルでは画定されていない。平和条約の中で国境線を画定するという作業が、国際法に基づいたクリル諸島の帰属問題の解決法となる。しかし、ロシアの世論では、この憲法改正は南クリルの2島はもちろん、4島の返還を認めないものであると捉えられている。
新型コロナウイルスの感染によるパンデミック、それに伴う社会・経済問題の発生、米国の政権交代、プーチン大統領と安倍前首相の対話および新たなロシアの現実を注意深く読み解く必要性に迫られたことなどから、両国の対話は必然的に休止されることとなった。
しかしながら、6月初旬、プーチン大統領は世界の通信社の指導者らと会見した中で、再び平和条約の問題に触れ、「ロシアの憲法は改正された。このことを考慮に入れる必要があることは当然である。しかし、平和条約締結に関する対話を中断すべきだとは考えていない」と述べた。
6月23日、プーチン大統領は、クリル諸島の経済活動に日本を引き込む「ユニークかつ前例のない」提案を行った。その後、ミシュスチン首相はクナシル島で、クリル諸島全土で無関税特区―つまり関税、税金の支払いなしで、また外国製品に対しては非関税障壁を設けることなく輸入できる特別区を創設することが検討されていると具体的な発言を行った。さらに、投資家らに対しては、税金や納付金の一部を減免することが提案されている。首相は、これについて、欧米のものを含む投資家にとって、また日本の投資家にとっても良い決定になる可能性があると強調した。しかしここが非常に大きな政治上のポイントで、ロシア政府は外国人投資家への呼びかけにおいて、日本を対象にした特別な措置を設ける用意はないとしている。4島で露日が共同経済活動を行うという以前のアプローチはもはや状況に重要性を失っている。
ミシュスチン首相は、外国のビジネスをクリル諸島に呼び込むための提案に関しては、モスクワに戻った後、引き続きプーチン大統領と協議を継続すると言明した。つまり、きわめて早い時期に、最終的な決定が下される可能性もあるということになる。
ロシア政府は日本政府との間で平和条約締結に向けた対話を再開する用意があるとしながらも、自らの立場を非常に強硬なものにしている。