「我々は分岐点にいる」部落問題の現状と課題について日本人専門家が語る

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独占記事
2020年夏にアメリカで抗議運動Black Lives Matterが活発化して以降、日本のSNSでは「日本にはアメリカほどのひどい差別はない」というコメントが頻繁に見られた。しかし、本当にそうなのだろうか?例えば、部落問題はどうなのか。スプートニクは差別の問題に詳しい関西大社会学部の内田龍史教授に日本の現状をきいた。

日本人は部落問題をどう捉えている?

2020年6月の法務省の部落差別の実態に係る調査結果報告書によると、部落差別の問題を知っている日本人は80%以下であり、国民の20%以上が部落差別または同和問題という言葉を聞いたことがないと答えた。しかし、認知度は地域によって大きく違う。例えば、西日本では大多数がこの問題を知っている一方、東京を含む東日本では認知度は低い。
内田教授:「これは何故かと言うと、被差別部落の分布の影響です。近畿より西の西日本に7〜8割の地域が集まっており、人口も多いです。北海道と沖縄はもともと日本の領土ではなかったため、部落は基本的に地域としては存在していません。東北にも、歴史を辿ればあるのですが、いわゆる同和対策事業の対象地域である同和地区として指定して、環境改善などの施策をすることは東北ではほぼ行われませんでした。
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そういう地域が沢山あって、課題も沢山あるところでは、やはり施策も進み、教育も行われます。ですから、西日本だと、地域の数も多く、人口も多い、部落の規模も大きいので、今まで施策を行い、差別をなくすための教育も熱心に取り組んできたという歴史がありますので、認知度が高くなってきたと言えます。しかし、東北や北海道と沖縄では、そういうことが行われなかったのです。東京は少し特殊事例で、同和地区を指定しませんでした。ですから、知らない人も多いです。」
年齢別で見てみると、18歳から29歳の若者では、部落差別または同和問題という言葉を聞いたことがない割合は1/3を超える。内田教授によると、その理由は2002年に同和対策に関する特別措置法の期限が切れたことにあるという。1969年に施行されたこの法律は、部落差別における生活環境の改善等を目的としたもので、それを受けて、部落差別問題の認知度も大きく高まった。しかし現在、若者が部落差別問題を学ぶ機会が少なくなり、それが「部落差別の再生産」の脅威を生み出していると内田教授は語る。
内田教授:「何がまずいかと言うと、20代の若い人の方がインターネットを使うことです。インターネット上には部落に対する偏見情報が多く流されているのです。『部落の人は怖い』とか、『治安が悪い』とか、『ヤクザ絡みなんじゃないか』とか、『犯罪に絡んでいるのではないか』、そうした偏見情報が流れているのです。」
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部落は法律で守られているのか?

2016年、「部落差別の解消の推進に関する法律(部落差別解消推進法)」が議員立法で成立した。この法律の特徴は、インターネット普及にともなう新たな形の差別の対策に主眼を置いていることだ。
内田教授:「インターネット上に被差別部落や出身者のリストを載せて差別を扇動する人がいるのですが、そういうことが問題になってきたからこそ法律が必要になったのです。これまでは出版物などの情報だったので、誰もが見るようなものではありませんでした。それが簡単にインターネットに公開されることによって、プライバシーに関する情報が全部暴露されてしまっているのです。」
同時に、内田教授は、この法律は理想からは程遠いと言う。この法律は本質的には理念法であり、罰則規定がない。また、内田教授によると、たった6条しかない簡単な法律であることも欠点だという。
内田教授:「だから、部落解放同盟などは、実効性があるものにするためには差別を禁止する法律を作ってほしいと強調しています。他の国だと、差別禁止法のような、差別をすると罰則があり裁かれる、あるいはヘイトクライムのような形で差別の意図を持って犯罪をおかした場合には、それが重く認められます。しかし、そういうものは日本にはないのです。ですから、法律ができて、改めて部落差別は解消すべきだと言われたけれども、どこまで実効性があるのかというと、ちょっと物足りないところがあるという状況です。」
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新政権はこの問題に取り組めるのか?

今年9月の部落解放同盟と被差別部落出身者約230人の訴訟で、東京地裁は全国の被差別部落の地名などをまとめた本の出版や地名リストのネット公開はプライバシー侵害であると認めた。
このような判決は大きな勝利のようにも思えるが、この決定は川崎市の出版社にしか適用されず、例えば、公開しようとしていた6県分の地名リストの出版禁止などは命じられなかった。また、内田教授によると、この問題は、当然、プライバシー侵害だけでなく、差別されない権利の侵害の問題でもあり、そこが裁判では認められなかったという。さらに、今回の裁判では、原告の他にも部落の人たちがいるということが問題視されなかったのが大きな問題だと内田教授は指摘する。この訴訟に関するニュースはメディアでも大きな注目を集めたが、内田教授は、新政権が部落の現状改善に取り組むとは考えにくいと述べる。
内田教授:「基本的には後ろ向きというか、あまり取り上げたくないのではないかと考えられます。これは日本の政治状況がかなり絡んでいて、今回の原告の部落解放同盟はもともと社会党を支持していました。また、共産党も部落問題について取り組んできた歴史がありますが、この部落解放同盟と共産党はものすごく仲が悪いため、部落解放同盟が要求する法律には反対の立場です。
今の政権与党は自民党なので、旧社会党系の部落解放同盟の人たちがいくらいろんなことを言っても、自民党がそういう法律を作っていこう、政策に移していこうという合意が取れないと、なかなか動かないところがあるのです。
自民党からすると、部落解放同盟は旧社会党系なので、相容れないところがあるわけです。もちろん、自民党の中にも部落問題にすごく取り組んでいる議員もいます。法制定に大きな役割を果たしたのは自民党の幹事長だった二階さんです。でも自民党でできる限界はそこだと思います。理念法だけということです。」
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スプートニク:部落問題は江戸時代に遡ります。その差別が現在まで残っている最大の理由は何ですか?
内田教授:「差別されたくないからこそ避けるというのが、部落差別の存続要因として今もあると思います。自分たちが差別を容認していることの裏返しで、自分が差別されるのは嫌じゃないですか。部落とみなされて差別されるのは嫌だから、結婚や付き合いを避けるという意識は今でもあるということです。ずいぶん改善されてはきましたけれども。しかし、私は差別する気はないけれど、社会や日本のまわりの人たちが差別を温存しているからには、あの人たちとは付き合わないほうがいいね、うちの子どもとは結婚してほしくないねと思う人も結構多いです。」
スプートニク:この問題にはどんな解決策があると思いますか?
内田教授:「罰則規定をかけて止めるとか、そういうことは、基本的にあまりしたくないんだろうなというのが今の政権の印象です。しかし、実は、部落を巡る状況は過去100年で変わりました。今の日本の社会、先ほど紹介した報告書でもそうですが、教育の成果もあって「部落差別はいけないことだ」、「部落差別は不当な差別だ」と認識している人の方が今はマジョリティーです。
ただし近年、現実に起こっているのは、若い人で部落差別問題を知らない人が多いという状況です。知らない人が増えると、おそらく偏見情報に騙される人も増えていくでしょう。先ほど言った部落差別解消推進法に基づく報告書を見ると、我々は分岐点にいることがわかります。もう一度きちんと「部落差別はだめなことですよ」と伝えていかないと、どっちに転ぶかわかりません。」
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