IPEF 経済的繁栄か米国の覇権奪取の争いか?

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IPEF 経済的繁栄か米国の覇権奪取の争いか? - Sputnik 日本, 1920, 30.05.2022
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最近アジア歴訪を行ったジョー・バイデン米大統領は、東京で、中国を排除した新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」の立ち上げを正式に発表した。米政府はこのIPEFをデジタルを含む貿易の高水準ルール設定と今世紀のサプライチェーンの強化を呼びかける重要な経済の合意だと見なしている。これは巨大な経済連携であり、米大統領府はこの経済力をアジアにおける中国との新たな覇権争いに利用する意向である。しかし、この米国が提唱する新たな構想が、中国も参加する具体的な地域の経済同盟に、「言葉だけでなく、実際に」勝つチャンスはあるのだろうか。

現実的な突破口か、ただの構想か?

米国がIPEFの発足を急いでいるのは、米国がトランプ前大統領時代にTPP(環太平洋パートナーシップ協定)から離脱したことによるもので、米国はそれに代わる新たな枠組みを早急に打ち出す必要があるからだと経済アナリスト(投資会社インスタント・インヴェスト金融市場・マクロ経済分析部長)、アレクサンドル・チモフェーエフ氏は指摘する。
「米大統領府はTPPにすぐに復帰する可能性はないと見ています。そこで、その地域(アジア太平洋地域=米国が常に自国の内海と考えている場所)において、米国の立場は大幅に弱まりました。従って、米国は新たな経済構想がうまく進んでいないことに焦りを感じています。一方、アジアでは、2020年の末に、日本、オーストラリア、その他アジア太平洋地域の12カ国と中国が参加する巨大な自由貿易圏がすでに創設されています。これは新たな米国の失敗であり、一方の中国は逆に多くの国々との間で法的合意(貿易、インフラ投資などに関する)を締結し、地域における自国の立場を強めました。こうした状況を背景に、IPEF(法的拘束力のない)は現時点ではバイデン大統領の意向を一方的に宣言した政治的なPRに過ぎません。というのも、地域の国々(地域内のプレーヤーと日本)はIPEFがなくても、順調な貿易と発展に必要な資源と(既存の合意を基にした)あらゆる経済メカニズムを有しています。これらの国々は現在の条件下でも十分順調ですが、これらの国々はIPEFへの参加をこれみよがしに拒否することで米国を「怒らせる」ことはできずにいます。しかしながら、この地域の国々のほとんどは、米国の利益のために中国と争うつもりはありません」
米中の国旗 - Sputnik 日本, 1920, 28.05.2022
米国の「第二戦線」:なぜ米国はますます中国を「弄ぶ」のか?
そこで、米国が率いるこの新たなインド太平洋経済戦略が、東南アジア諸国の間で、(今後、閣僚レベルでの前進に向けた)現実的な支持を得られるとは断言できないと専門家は指摘する。
政治学博士で、ロシア科学アカデミー極東研究所政治研究予測センターのアンドレイ・ヴィノグラードフ所長も、この新たな経済圏構想は現時点ではプロパガンダの一環に過ぎないとの見方を示している。
「地域の国々は経済的に中国と密接に関係を築いています。ですから、彼らにとっての重要な課題はこの連携を維持することなのです。もちろん、これらの国々は自らの主権と独立性を守ろうとしており、そのために米国が役に立つ可能性はあります。ですから、ほぼすべてのアジア諸国は(日本と台湾を除いて)これまで通り、自国の経済的利益への損害を被るのを避けつつ、中国と米国の間でうまくバランスを取り続けることになります」
たとえば、(ウクライナ情勢を背景とした)対露制裁の条件下にあるEU(欧州連合)諸国が自国の経済利益よりも政治を重要視したのと同様である。

新たな世界秩序確立の戦いか?

しかし、米国との対立が激化した場合に、アジア諸国の「バランスの維持」が、中国にとっても危機的なものになる可能性はあるのだろうか。

「IPEFが純粋な経済的に反中国的なものだというのは、あまりにも単純な捉え方だと思います。というのもそれはこの構想の機能の一つにすぎないからです。実際、この構想の持つ意義は、米国の経済利益というものより、はるかに広いものです。なぜなら、米国も中国も、経済分野における中国との競争だけに懸念を抱いているわけではないからです。米国は(新たな構想を立ち上げつつ)、新たな秩序を形成しています。そして、米国の見地から言えば、これは破壊的なものではなく、建設的なものです。彼らは信頼できる、経済的に有益で、かつ地域の安全を維持し、それでいて、米国の利益に敵うような組織を構築しようとしているのです。こうした構造は事実、ある意味で中国の利益に反するかもしれません。しかし、中国の経済プロジェクト(一帯一路)もまた米国の利益に影響を与えるものです。しかし、戦略的な米中の競争というのは、現在すでに経済だけではなく、世界がどのように確立されるかということに対する戦いなのです」

米国と中国は(冷戦中の米国とソ連のように)現在、独自の新たな世界と秩序を作り上げ、そこにできるだけ多くの国々を引き入れようとしている。
バイデン大統領 - Sputnik 日本, 1920, 27.05.2022
アジアが結束するための新たな枠組みを提案するバイデン大統領 オピニオン
そこで、将来のイデオロギーに関する問題(一極世界、二極世界あるいは多極世界)が主要な国々の経済的、政治的な対立にもより明らかに現れつつある。これについて専門家は次のように述べている。
「他でもないイデオロギーが主要な分断線となり、同時に世界における新たなリーダーシップを手にするための『影響力』となっています。というのも、新たな世界で米国が単に中国の定義に従うことはできませんし、また逆も然りだからです」
つまり、IPEFの主要な目的は、アジア太平洋地域で拡大しつつある中国の影響力とその「経済的孤立」の牽制だけでなく、世界の覇権者、世界の支配力としての米国の「生き残り」でもある。しかし、インド太平洋地域を繁栄した安全なものにするという米国の考えを伝えるバイデン大統領の宣言だけでは、明らかに不十分である。
一方、中国は多くは語らないが、地域のパートナー諸国の現実的な経済成長のために多くのことを成し遂げている。アジアにおける米国の成功といえば、今のところ軍事分野(米国の基地の数)でしか目立っていないのである。
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