【視点】新たな米国の法は、テスラと世界のすべての自動車メーカーを対立させるものなのか?

© AP Photo / David ZalubowskiTesla Model S
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米国では、1月1日からインフレ抑制法(IRA)が発効する。この法の主要な条項となっているのは、消費者に自動車の購入を促す税制優遇である。しかしながら、(そこにはメリットがあるにもかかわらず)この法は世界中でネガティブな反響を呼び起こしている。
なぜ、米国で制定された法案が、日本を含む多くの国々に批判を呼び、不満の声を上げさせているのか、「スプートニク」が専門家に話を聞いた。
11月初旬、日本政府はこの法をめぐる懸念を、政府からの意見書として明確に表した。そして米政府に対し、新たな法による要求を緩和するよう要請した。というのも、米国で電気自動車を購入する際に与えられる優遇システムは、日本の自動車メーカーにとって不利なものだからである。
というのも、米国のこの法の文書では、自動車購入に際して最大7500ドルを所得税から控除することが定められているが、その対象となるのは、北米で最終組み立てが行われ、その電池用部品が米国で製造されている自動車を購入した者と限定されているからである。
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こうした措置はサプライチェーンを強化を促し、中国への依存を軽減すると考えられている。しかしながら、モスクワ国立大学、アジアアフリカ諸国研究所のアンドレイ・フェシュン副所長は、日本もこれによる損害を受けたと感じていると指摘し、次のように述べている。

「実質的に世界のすべての国が保護主義的政策をとっているが、米国は特にこれを、もっともハイテクな製品に対し、冷笑主義的に行っています。その製品とは、今もっとも人気のある電気自動車です。とはいえ、日本は電気自動車に対し、もっとも強く保護主義的な立場をとっていた国の一つでした。それは、他でもない、世界最初のハイブリッド車であるトヨタのプリウス(エンジンとモーターを動力源とする)に対して取られたものでした。

日本人がこの自動車の購入する際、一定の割引が適用されたのです。それは、たとえば、特定の場所で充電するときに割引があるなどで、これは十分に功を奏し、現在、日本の多くの人がこのプリウスを所有することとなりました。しかし、米国が同じような措置を講じようとすると、世界のほとんどの人がそれに反対しています。というのも、旧世界は事実上、自動車産業から『取り残される』ことになるからです。欧州の自動車産業は、(エネルギー資源が安価であることから)製造や組み立てがかなり安価な米国と積極的に連携する必要があるからです」

日本も不安を露わにしているのも驚くべきことではありません。しかし、つい最近までは日本も安心しきっていました。主要自動車メーカーの管理職や高技能を持つ労働者が高い報酬を受け取っていたのです。しかし、米国の新たな法は、今後、日本に何ら良いことをもたらしてはくれません。
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これに関連して、投資会社「インスタント・インベスト」金融市場・マクロ経済分析センターのアレクサンドル・チモフェーエフ所長は、元々この法は、日本に対して損害を与えることを狙ったものではなかったと指摘している。

「この米国の法は、まず対欧州として可決された。より正確に言えば、ドイツとフランスの大手自動車メーカー、フォルクスワーゲン=アウディ、メルセデス・ベンツ、BMWのいわゆる「ビッグ3」を対象としている。そこで、EUはすでに夏の段階で、非常に厳しい立場を表明していました。しかし、現在、欧州は、米国と競争し、全面的な貿易戦争に持ち込むこともできない状況です。従って、欧州の産業がおそらくもっとも甚大な被害を受けることになるのは間違いありません。とはいえ、日本も当然、影響を受けることになるでしょう。というのも、法の本質は自動車の『グリーン化のメリット』ではなく、大規模な税額控除だからです。最大7500ドルも控除されるというボーナスは、消費者に、ドイツのBMWではなく、米国のテスラの購入を促す決定的な要素となるからです」

これまで、テスラは欧州にとって、競争相手としてはかなり弱い存在であった。革新的な商品ではあるものの、その販売市場は米国が期待したほどは伸びていないとチモフェーエフ氏は述べている。
「さらに欧州にも消費者にアピールできる電気自動車があります。しかも価格はテスラと同等です。ですから、米国は自らのやり方―つまり市場ではなく、米国製品に対する『あからさまな保護主義』で、『古い』欧州の自動車メーカーと厳しい競争に入ることにしたのです。これが日本をも懸念させていることは驚くべきことではありません。とはいえ、日本の自動車産業には『表面的な』影響しかありません。というのも、日本の自動車産業は、欧州諸国よりもはるか以前に、世界市場で『自らの立場を放棄した』からです。ですから、この法による主要な『犠牲者』は日本ではなく、欧州諸国であることは明白です」
しかしながら、日本は今回の件について、公にその懸念を表している。
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日本政府がまとめた意見書によれば、「日系自動車メーカーは、40年以上にわたり、米国に投資を行い、雇用を創出し、良き米国市民として貢献してきた。また、電池メーカーも米国に投資を行うとともに、米国のE Vメーカーを支えてきた。こうした企業のこれまでの貢献を踏まえずに、北米地域やFTA 締結国といった特定の国・地域のみを優遇する措置を採れば、今後電動化に向けた投資の拡大が期待される中で、こうした企業の投資を躊躇させ、米国における 投資・雇用の拡大に悪影響を与えることを懸念している」と述べられている。
しかし、どうやら米国はこれに怯むことはなさそうである。というのも、米国第一だからである。
米国の新たな法は、もっとも悪い形で保護主義が表れたものである。しかし、欧州諸国は、日本のように、このことに何ら影響を及ぼすことはできない。そして欧州も日本も、現時点で今の状況に影響を与えることはできず、ただ現状を受けいれるしかないとチモフェーエフ氏は述べている。
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一方、アンドレイ・フェシュン氏は、世界は、非常に冷笑主義的な声明を出す時代に突入したと指摘する。
「米国は自らの国を再び偉大なものにしたいとはっきりと宣言しています。欧州は米国にとってすでにかなり以前から競争相手ではありません。現在の米国にとっての主要な課題は、戦略的、経済的に中国に勝利することであり、また日本に対しても弱体化しないということです。最近、米国が日本について何か指摘することは少なくなっています。日本はアジアにおける米国の主要な同盟国であり、軍事拠点であるにもかかわらずです。とはいえ、米国が新たな法に関する日本政府の懸念に真剣に目を向けるとは考えられません。米国自身、恐れるものなど何もないのです。日本の投資家らは、かなり以前から、他のどこでもない米国の国債を買い、そこにはまりこんでいます」
現在の状況は、ドイツのような欧州の『重鎮』にも『明らかなパニック』を呼び起こしている。EUは、米国に対し、欧州の企業も米国の特権を行使することを可能とするような合意を結びたいと考えている。
しかし、こうした米国との間で合意が結ばれる可能性は、欧州でも、アジアでも低いだろう。しかし、将来的に、米国が中国との対立において、敗者となる可能性はある。というのも、欧州の弱体化によって、安価なエネルギー資源に関し、何ら問題のない中国が、その立場を強めることが予想されるからである。
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