【視点】一時金増額も出生率増加にはつながらない?

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赤ちゃん - Sputnik 日本, 1920, 22.12.2022
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松野博一官房長官は、日本における2022年の出生率が過去最少となる可能性があると明らかにした。また人口増加率は昨年よりも緩やかになっており、松野官房長官は、「危機的状況」と指摘した。しかし、これは国家的パニックに陥る状況と言えるのだろうか?

新型コロナによる問題の複雑化

というのも、出生率の低下は先進国における世界的な傾向である。加えて、このプロセスに「ネガティブな影響」を及ぼしたのが、新型コロナウイルスによるパンデミックである。これが、以前より存在した出生率低下の傾向をより深刻なものにしたのであり、この悪影響は今後も続く可能性がある。
これについて第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生氏は、パンデミックによる制限、ロックダウン、生産低下を原因とする経済低迷が、婚姻件数の減少、出生率の低下を生んだと指摘している。
そこで、日本小児科学会はパンデミックによる出生率の低下は今後10年で加速化する可能性があり、それによって小児科医療が崩壊するだけでなく、さらなる影響が及ぼされる危険性があると警告と発している。
しかし、日本の出生率低下はこの1〜2年の傾向ではなく、すでに数十年続いているものである。
そこで、厚生労働省は、出産育児一時金を増額することで、若者の間で家族を「増やそう」という動きが作られることを期待している。この一時金の額は2023年より50万となる。
出産育児一時金がこれほど大幅に(8万円)引き上げられるのは、2009年に支給が始まって以来のことである。
一方、過去に政府が行った同様の措置は一時金を支給しても国内の人口動態学的な状況を改善するのには限定的な効果しかもたらさなかった。そして状況は日本社会にとってますます深刻な脅威となっている。
しかし、なぜ日本にとって、この支援策は明らかに不十分なのだろうか。何がこれに影響しているのだろうか。というのも、日本は世界第3位の経済国であり、国民の生活水準はかなり高い。
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発達した社会は少子化を「保障する」のだろうか?

しかし、日本人の「生活費」は非常に高く、これが出産を控える主な要素になっているのではないかと指摘するのは、高等経済学院、世界経済国際政治学部の国際活動発展センターのデニス・シェルバコフ所長である。

「日本は発展したハイテク国家の一つです。しかし、たとえこのような『ボーナス』を約束しても、少子高齢化は他でもないこうした生活水準の高い国に特徴的なものです。日本はこの意味においては例外ではありません。とはいえ日本ならではの事情もあります。日本社会では、子どもは良い意味で一種の「投資」と考えられています。

しかし、その投資による『配当』を得る時期はかなり長期的なものになります。しかしながら、子どもに対する巨額の投資はいますぐ必要なのです。というのも、先進国では、親は子どもに最良の教育や知識を与えたいという気持ちが基礎となっており、それには必ず、多額の費用が必要となるからです。

一方で、より貧しい国々発展途上の国では、子どもは何より、家庭の労働力と捉えられています」。

このように、日本で出生率が低下している原因は、子どもに十分なものを与えることができるかどうかということへの不安である。つまり、家族を養うために十分に稼ぐことができるのかと自問するためである。さらに、子どもが成長するまでの期間、仕事と私生活のバランスを保てるのかどうかという心配もある。

西側の価値観による影響

加えて、日本社会はかつてのように閉鎖的ではない。
シェルバコフ氏は、そのため、女性が自己実現を目指そうとする最近の傾向が出てきていると付け加えている。

「西側の社会と同様、フェミニズムの台頭によって、日本人女性も、キャリアを優先して、出産を控えるようになっています。しかも、日本では男性に対する高収入の役職に関する大きな問題があることも、出産を控える傾向を生んでいます」。

つまり、日本の生活水準はかなり高いものの、給与は「家長」である男性が望むほどのスピードでは上がっていない。
また現在のインフレ率も子どもを持つことを簡単に決意するのを妨げている。
2021年の政府の発表によれば、日本の出生率は100年以上ぶりに最低を記録した。
また現在、日本は世界で最も高齢化した国となっており、2050年には、65歳以上の人口が35%以上を超えると予想されている。
もしこうした状況を打開することができなければ、経済第3位の国とって、どのような長期的な影響がもたらされるのだろうか。
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若者への「負担」と経済への「リスク」

シェルバコフ氏によれば、その影響は他の先進国と同様で、
人口の低下は経済成長に対するリスクを生み、国の財政に対する負担を大きくすると述べている。

「非労働人口が労働人口を大きく上回ります。そうなると、所得税の増税が必要となり、国家予算において社会保障への拠出がかなり大きくなります。日本の『年齢ピラミッド』は現在、壺型になっています。

つまり、労働人口が年金支給者の人口を補うスピードに追いついていません。しかも、この問題は、日本が世界でも最大規模の国の借金を抱えていることでより複雑なものになっています。この国の借金返済に予算のおよそ25%が充てられています。

つまり、状況が短期のうちに抜本的に変化しなければ、今後、より少なくなっていく労働力を持つ若い世代の肩に計り知れない負担がのしかかることになるのです。社会支出、国の借金の返済額は大きくなるばかりなのです」。

こうした国民に対する経済負担という長期的な影響も与党の懸念材料となっている。しかも、人口の自然増加率が低く、人口が減少していることは、総合国力の低下につながる可能性があると岸田総理大臣も報告の中で指摘している。
2022年1月から9月までの出生数は59万9636人で、これは2021年の同時期の4.9%減である。その結果、2022年の出生率は2021年の81万1000人を下回る可能性がある。
厚生労働省の報道官は、時事通信に対し、昨年の出生率の低下は、出産期の女性人口が減少したためだと述べている。ジャパントゥデイが伝えるところによれば、これを受けて、加藤勝信厚生労働大臣は、出生率低下問題の対策について、岸田総理大臣と意見を交わしたという。この対策は2023年に採択され、発効する。

一時金では解決しない?

一時金を増額も日本の出生率を上げることにはならないのではないかという懸念もある。というのも、一時金は国家の保険制度を通じて支払われるが国民は出産費用を自分で支払わなければならないからである。毎日新聞によればその平均額は47万3000円となっている。
つまり、これは、一時金が増額されても、夫婦の手元には退院したときに平均で3万円も残らないということを意味する。
このように、政府からの援助はあっても、人口状況に大々的な「プラスの改善」が見られるかどうかは疑問のままなのである。
しかし、問題を解決に導くための正しい方法はまだある。松山政司元少子化担当相は、もしそうならなければ、「地図に自分たちの知っている民族の存在が描かれなくなる危機となるかもしれない」と指摘している。
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