【解説】進歩の推進力 2022年の科学界が達成した新発見
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2022年の科学界もヒトDNA塩基配列の完全解読から、小惑星の衝突回避実験の成功、ブタの心臓の人体への移植まで、新たな発見、達成は少なくなかった。スプートニクは2022年に起きたブレイクスルーの中から最も重要度の高く、興味深い話題を5つ集めた。
30年の歳月を経て、ヒトゲノムが完全解読
ヒトのDNAを解読するプロジェクトは1990年代にすでに始まっていた。ゲノム配列の解読は2003年には85%まで進み、2022年にはついに米国、ロシア、英国など数カ国の生物学者が完成させた。CHM13と名付けられたヒトゲノムは30億個の「文字」からなる完全な塩基配列。もはや不明な部分は残されていない。
遺伝学の基礎の達成は今や世界の科学者コミュニティに開示されており、各人が普通に利用することができる。これで科学者たちは、様々な人間によってDNAが異なることをよりよく理解し、遺伝子の突然変異や遺伝子が危険な病気の発現にどう影響するのかを追跡することができる。
小惑星防御システムが初の成功
6500万年前、直径10キロの「チクシュルーブ衝突体」が地球に衝突し、これによって恐竜は絶滅した。今日、同じ事態がが繰り返されれば、人類文明は完全に終わりを迎える。NASA「惑星防衛シテム(DART)」ミッションは意図的に小惑星に物体を衝突させ、小惑星の軌道の変更を試みた、この実験の標的として選ばれた小惑星「ディモルフォス」には2021年11月の段階ですでに、衝突させるためにDARTの探査機が差し向けられた。
それから約1年後の2022年9月27日、探査機は直径160メートルの小惑星ディモルフォスに秒速6キロメートルのスピードで衝突。探査機は瞬時に破壊されたが、小惑星の動きを鈍化させることにも成功した。
NASA の「惑星防衛システム(DART)」が成功を収めたことで人類には恐竜の悲劇を回避できる希望が湧いた。
多年草の米の品種が誕生
世界の主食の作物である米、小麦、トウモロコシは、毎年新たに蒔いて収穫しなければならない。このサイクルは毎年繰り返さねばならないため、農業コストがかかるほか、種から発芽する際に植物は土から多くの養分やミネラルを取ってしまうため、どうしても土壌侵食が進むことは避けられない。
PR23は多年草化された米の品種で、20年前にアジアの一年草の米の商業品種Oryza sativaとアフリカに生育する野生の多年草の米Oryza longistaminataを交配して開発された。そのPR23が、実際に品質のよい収穫を挙げるのに20年の歳月を有した。2022年になって初めて、PR23から従来の米と同程度の粒を収穫することができたという報告が中国から発表された。
多年草の米は初年度から一年草の米と同じ量の穀物が収穫できることがわかった。2年目には同じだけの収量率で、植え付け直す必要がない分、一人当たりの作業時間は77日分短縮、コストも半分になるなど、経済的なメリットが明白になった。収穫量は5年目までは堕ちなかったが、ただしその時になると初めて植え替えが必要となった。
米はアジアの主要作物であり、その栽培コストが縮小され、土壌侵食が抑制されれば大きな経済効果がもたらされる。
ブラックホールの母
NASAがハッブル宇宙望遠鏡を使って矮小銀河の中に発見したブラックホールは、新しい星を飲み込むのではなく、それが出現するよう刺激していたことが明らかになった。
大きな銀河の中ではブラックホールに落ちた物質は普通、その磁場によって運ばれ、超高温のプラズマジェットや宇宙ジェットを形成し、光速に近いスピードで移動する。その通り道にあるガス雲は同様の温度まで加熱されるため、星の形成は不可能になる。なぜなら天体は冷たい星間ガスの雲から形成されるからだ。
ところが地球から3000万光年離れた矮小銀河「Hen 2−10」では事情は異なり、ブラックホールは物質やガスにソフトに影響し、新しい星を誕生させる原動力となっていたことがわかった。
この発見は、宇宙が誕生したばかりの時期の超巨大ブラックホールの起源を解明する鍵になりえる。
Black holes could be seen as the supervillains in astronomy, destroying stars and holding light captive. However, the galactic black hole at the heart of dwarf starburst galaxy Henize 2-10 is providing a chance for redemption. (1/4) pic.twitter.com/Y0r77W1BOy
— Hubble Space Telescope (@HubbleTelescope) January 19, 2022
ブタの心臓が初めて人間に移植
米メリーランド大学病院が世界で初めて、遺伝子組み換えによるブタの心臓の移植手術を重度の不整脈に苦しむ患者のデービッド・ベネットさん(57)に施した。
手術は成功し、しばらく後に患者は帰宅したものの、2か月後、容体は急変し、死亡。
とはいえ、この移植は大きな成果だった。これを受けて科学者たちは、人間への臓器移植を行うために遺伝子組み換え豚の飼育を開始しようとしている。臓器提供者は探すのに何ヶ月も、あるいは何年も待たなければならないことが多いため、この方法は患者の延命に功を奏すと期待されている。