【ルポ】二人の女性の出会いから生まれた聖ニコライのイコン 日本とロシアの農村風景が融合した芸術
© 写真 : Vladimir Orehovソフィア・マギチナさん
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サイン
ロシア南部クバン地方の著名なイコン画家ソフィア・マギチナさんと仲間による展覧会が、モスクワ市内のロシア美術アカデミーで閉幕した。来場者の注目を集めたマギチナさんの新作は、日本に正教会を伝導した聖ニコライのイコンだ。聖ニコライは1861年に来日し、函館で日本について学びながら多くの弟子を獲得。日露戦争の最中も日本に残り日本正教会のために尽くした。マギチナさんがこのイコンを書こうと決めたのは、駐ロシア日本大使夫人で、イコンを始めとする西洋美術に造詣が深い上月裕子さんとの出会いによるものだ。
イコンとはイエス・キリストや聖母、聖人、聖書の一場面などを板絵で表現したもの。正教会においてイコンは単なる飾りではなく、信仰の媒介として重要な役割を果たしている。昨冬、ロシア南部を訪れた上月さんは、マギチナさんが講師を務めるイコン講座にゲスト参加した。マギチナさんはその日のことを「人生のうちでも特に素晴らしい日だった」と振り返る。
マギチナさんの新作 聖ニコライのイコン
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「上月さんが、20年以上にわたりイコンを書き、この伝統分野に深くかかわる方だと知り大変驚き、非常に感銘を受けました。そこで上月さんから、日本に正教会を広めた聖ニコライについて詳しく教えて頂きました。その存在は知っていましたが、日本での暮らしについては何も知らなかったので、彼の人生について調べたいと思いました。聖ニコライの日記の中には、日本の農村の人たちが非常に困難な条件下でも懸命に仕事に励んでいることが記されています。また、聖ニコライはその光景を見て、ロシアの農民を思い出しました。彼は日記の中で、文化的伝統、人間としての基本的な価値観という意味において、日本とロシアにはとても多くの共通点があることを指摘しています。私はそれを読んで心を動かされ、聖ニコライのイコンを書くと決意しました。そしてそのイコンの中には、日本とロシア、両方の文化が存在するようにしたかったのです」
もともと日本の浮世絵が好きだったマギチナさんは、浮世絵の伝統を少しでも取り入れようと、地元クラスノダール市にあるコワレンコ記念美術館に日参した。ここはロシアの美術館の中でも特に、浮世絵のコレクションが充実している。また、浮世絵を研究するうち、波や雲といったモチーフ、風景やオーナメントの細かい部分は、「ネヴィヤンスク(ウラル地方の町)のイコン」のスタイルに共通性があると気づいた。その伝統も考慮し、とうとう作品が仕上がった。
マギチナさんの娘は、母親が日本をテーマにした作品を書いていることを知ると、それに合うように竹をモチーフにした花瓶を手作りした。会期中は、日本の心を伝えようと、可憐な花を活けた。
© Sputnik / Asuka Tokuyamaソフィア・マギチナさんと上月裕子さん、モスクワの展覧会で再会
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ソフィア・マギチナさんと上月裕子さん、モスクワの展覧会で再会
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マギチナさんと展覧会の主催者は、インスピレーションを与えてくれた上月さんに感謝の気持ちを述べたいとの想いから、招待を送った。上月さんは聖ニコライのイコンを見て、両国共通の美意識が散りばめられていることに気づいた。イコンの枠は日本の日の丸と同じ赤で、雲と金箔を用いた黄金の背景はまるで屏風絵のよう。フレーム部分の石は、日本の石庭を思い起こさせてくれる。
「この素晴らしい作品に出会えて嬉しく思います。浮世絵ではよく、うねるような波が描かれますが、このイコンではそれが地面の金箔部分に線刻されていて面白い発想だと思いました。一方には富士山と日本の田園の労働風景、もう一方にはロシアの教会が描かれています。日本とロシア、両方の文化がこの一枚のイコンの中で結ばれている感じがします。これはまさに聖ニコライが目指したものでしょう。実は私も聖ニコライのイコンを書き始めたところなので、今日はこの作品にインスピレーションを頂きました」
© Sputnik / Asuka Tokuyamaマギチナさんの娘がイコンにあわせて作った花瓶
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マギチナさんの娘がイコンにあわせて作った花瓶
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展覧会組織委員長アレクサンドル・ソロヴィヨフ氏
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マギチナさんのアトリエがあるクラスノダール市には、先述のコワレンコ記念美術館のほか、日本国外で最大規模の7.5ヘクタールにも及ぶ日本庭園もオープンしたばかり。マギチナさんは「日本との縁も神のお導きです。ぜひ日本の皆様にクラスノダールへお越しいただきたい」と話している。
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