「核の脅威」懸念で出された道徳的要請 では、一体何がこの事態を招いたのか

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核兵器 - Sputnik 日本, 1920, 12.09.2023
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チャーチルはかつてこう言った。米国人は常に正しい決断を下すが、まずその前に正しい決断以外の全てを試すと。そうなったのがアフガニスタンであったし、今度はウクライナがそうなる番なのだろうか? 西側世界の文明は戦争と震撼を繰り返し、変容してきた。目の前に新たな変革が迫った今、我々は何を目にすることになるのだろうか? ロシア外務省外交アカデミー、時事国際問題研究所所長のアレクサンドル・クラマレンコ特命全権大使はこうした問いを投げかけている(以下、同大使の論文をご紹介します)。
2023年5月、広島のG7サミット開幕間近の時期に、汎欧州シンクタンク「ヨーロピアン・リーダーシップ・ネットワーク」(ELN、拠点ロンドン、元英国NATO代表のアダム・トムソン氏が代表)は一連の諸国の元政治家、専門家らに呼び掛け、核大国に、特に米国とロシアに対し、戦略兵器の制限プロセスを再現するよう、2010年に調印された新戦略兵器削減条約(新START)が2026年2月に失効した場合、同条約が完全にフェイドアウトしないようメッセージを送るよう発案した。これは「世界規模の道徳的な要請」として出されている。特筆すべきなのは、ロシアと米国が同じまな板の上に乗せられ、この問題を「大国間の激化する競争」を超えてとりあげるよう、つまり(専門家らの認識としては)両国関係の、すべてを決定するコンテキストを超えてとらえるよう、呼びかけがなされていることだ。このコンテキストは開示されていないが、その理由は明らかである。
そもそも、軍備管理システム全体の解体を始めたのはロシアではない。すべては2002年、米国が1972年に締結の弾道弾迎撃ミサイル制限条約から一方的に脱退したことから始まった。これで、戦略攻撃兵器と防衛兵器の間のつながりが断ち切きられてしまったのだ。その先、さらに米国は、グローバルミサイル防衛システムの創設を欧州をポジションとして開始。トランプ政権も独自の「貢献」を行い、1987年に締結された中距離核戦力全廃条約を破棄。トランプ氏が2期目も居残っていたならば、新STARTも更新されることはなかっただろう。そうなれば、軍備管理の分野においてすべては完全にゼロに帰してしまい、特に警鐘を鳴らす人などいなかったはずだ。なぜなら行為が非難されねばならない大国はたった1国、米国だけだったはずだからである。
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次に、一体誰が何を侵しているのか、という問題を考えよう。米国の言う、戦略兵器運搬機の不安定な使用による「迅速なグローバル打撃」という概念は何を意味するのか。その他の大量破壊兵器はどうだろうか? 化学兵器(米国は資金不足という馬鹿げた口実で、化学兵器の保管庫の廃棄を長い間遅らせてきた)や生物兵器は? 生物兵器については、米国とその西側同盟国は、生物兵器禁止条約の検証プロトコルに着手することをかたくなに拒み続けている。米国が世界中に所有する生物実験室のネットワークを見れば、ウクライナでの特別軍事作戦で暴かれた実験室の存在も含め、生物兵器を使っていないという米国のギャランティは信じがたい。
第3に、軍備管理には参加しないという英国と仏の口実にどれほどの説得力があるのか。英仏は自らを文明国だと考えており、しかもNATOという軍事・政治陣営において米国の同盟国である。マデレーン・オルブライト氏は米国務長官だった時代、NATOが「核同盟」である事実を想起させはじめた。確かに、1968年の核拡散防止条約(NPT)に違反して、この条約上の核保有国ではない国々に核兵器へのアクセスを保障する「共同核ミッション」は存在する。その中には独も含まれている。NATOの6カ国の領土には米国の核兵器がある。ロシアは今回、特別軍事作戦のコンテキストでのみ、それに類似した行動をとる必要性が生じたため、同盟関係にあるベラルーシの領土に核兵器を配備した。なぜベルリンや他の欧州諸国の首都に、核拡散防止条約の義務の枠組みに戻るよう訴えないのであろうか?
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第4に、中国についてだ。米国に対して、中国を含む地政学的「トライアングル」(編集:露米中)全体の核ミサイル能力を同等にすることに同意することを提案してはどうだろうか。そうすれば、中国にとっても多国間軍備管理プロセスへの参加を検討する動機になるかもしれない。つい先日、ミリー米統合参謀本部議長も米国、ロシア、中国からなる「3つの近代的超大国」について言及したではないか。なぜ避けられない事態を待つ必要があるのか? 米国の抑止政策こそが、圧力や不安定化の脅威から守る手段として、米国の標的となる、あらゆる国を核兵器の保有へと駆り立てているのではないだろうか?
第5に、先日、採択された「核保有5大国」とG20の宣言には核兵器の不使用と核戦争反対(これらは全く同じではない)への言及がある。ではなぜさらに踏み込んで、すでに発効している2017年の核兵器禁止条約への加盟を核保有5大国に求めないのであろうか。誰も核兵器を使おうとしていないのであれば、なぜ核兵器が必要なのか? 米国が1996年に採択の包括的核実験禁止条約(CTBT)に未だに加盟していないことにも、皆が黙ってみないふりをしている。沈黙といえば、広島への原爆投下についてもそうだ。軍事的な重要性のない、この日本の2都市(編集:広島と長崎)に対して、誰が何の目的で核兵器を使用したのかは語られていない。目的は明らかに、当時のソ連に「シグナルを送る」ことだった。
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第6に、したがって、米国人エリートらの外交政策文化そのものとその道徳的基盤についての疑問がわく。なぜあらゆるものを封じ込めるのか? しかも、中国やロシアといった他国の発展まで、米国の世界支配に対する脅威として、封じ込めようとするのか? 米国の世界支配は長らく、この国の存続の手段となってきた。なぜ他国に発展を許さないのか。なぜいちいち米国に許可を求めなければならないのか?
第7に、「ヨーロピアン・リーダーシップ・ネットワーク」は要求を米国につきつけたらよいではないか。結局のところ、これは欧州の将来がかかっている問題だ。米国の行動は欧州大陸の安定化に寄与すべきものであり、これによって不安定になってはならない。特別軍事作戦の終了後、欧州はいかなる状態にあるべきか、今はそれを考える時でもある。現在の状況の根幹には、欧州安全保障の全アーキテクチャのNATO中心主義化が横たわっているが、これこそが根本的な悪習である。それがうまく機能せず、緊張と戦争につながるのであれば、欧州安全保障協力機構(OSCE)を基礎とする本格的な全地域的な集団安全保障システムの創設を考えてはどうだろうか。OSCEには、安全保障の不可分性、万人に平等な安全保障という原則を根底から覆すワシントン条約と互換性がないため、未だに規約すらない。遅かれ早かれ解決しなければならないこの問題について、政府とは、無関係で独立して行動する「ヨーロピアン・リーダーシップ・ネットワーク」の代表者や専門家たちは、なぜ専門家としての分析を行わないのだろうか。これは遅かれ早かれ解決せざるをえない問題であり、さらには、解決のために説得力のある選択肢が見つかれば、それはウクライナの和解にも貢献するはずだ。
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