【特集】埼玉のクルド人コミュニティ 平和な隣人関係か、騒ぎの火種か

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川口市役所 - Sputnik 日本, 1920, 20.09.2023
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ここ最近、埼玉県に住むクルド人をめぐって緊張が高まっている。川口市の病院付近で約100人のクルド人移民が加わって起きた騒ぎでは、SNSに敵対する内容の書き込みが大量になされ、後日、市長が法相を訪ね、外国人、特にクルド人の入国要件を厳しくするよう要請したニュースが流れると、これが反クルド人感情を強めてしまった。ところが市当局とクルド人社会の公式的代表らは問題の存在を否定している。
埼玉県の川口市と蕨市は小規模の都市で大きな国際紛争とは無縁に思える。だが一見しただけでは気づかない特殊性がある。実はこれらの町には約2000人のクルド人コミュニティがあるのだ。埼玉県にクルド人たちが移住し始めたのは、日本がトルコの迫害から逃れ、避難場所を求めるクルド人を受け入れた1990年代にさかのぼる。
日本の厳しい移民政策により、難民認定を受けた者はほとんどいないが(移民局によると、2022年には難民認定申請者3772人中認定を受けることができたのはわずか202人でクルド人はたった1人)、日本にいるクルド人の圧倒的大多数は、例えば日本国民と婚姻を結ぶなどして、滞在許可証を持っているか、一時的な滞在許可証を持って、それを更新している。現地の法律によれば、申請者が難民認定を申請すれば、強制送還されることはないため、日本にいる移民の大多数がこのケースを利用している。
日本には歴史的に、中国、韓国、インド、フィリピン、ブラジルなど、さまざまな国からのディアスポラが形成されてきた。 こうした国から来た人たちは日本社会に溶け込み、何十年にもわたって地域住民と平和的に共存してきた。ところが、埼玉県の川口市や蕨市ではクルド人との共存に緊張関係が生じている。言語や文化の差異があまりにも深刻だったのかもしれない。長い間にわたって地元住民の側に蓄積されてきた誤解、時には拒絶はここ数カ月で嫌悪に変わり始めていた。
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病院騒ぎで住民の否定的感情はさらに悪化か?

そうした状況の火に油を注いでしまったのが、先日起きた騒ぎを報じたニュース記事だった。記事には「クルド人問題」や地域住民との軋轢といった内容があからさまに語られていた。
中でも特に注目を集めたのが川口市の市立医療センター付近で起きた騒ぎで、これに100人近くのクルド人が加わった挙句、「緊急の受け入れがストップする事案があった」と報じられた。クルド人と住民の関係には報道にあるような深刻な軋轢があるのだろうか? スプートニクの記者は現地を取材し、騒動のあらゆる当事者らの話に耳を傾けた。
最初に取材したタシ・テイフィキさんは県内に展開するトルコ料理専門店「ハッピーケバブ」のオーナーで、日本在住は20余年になる。テイフィキ氏の話では、実際に病院付近ではクルド人たちの騒ぎがあったそうだ。
© Dmitry Gavrilovスプートニクの記者が川口駅近くのバスの車窓から撮影
スプートニクの記者が川口駅近くのバスの車窓から撮影 - Sputnik 日本
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スプートニクの記者が川口駅近くのバスの車窓から撮影
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スプートニクの記者が川口駅近くのバスの車窓から撮影
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スプートニクの記者が川口駅近くのバスの車窓から撮影

「若いクルド人同士で喧嘩がありました。やっぱりより大きな喧嘩になって、変なことにならないように、他のクルド人が駆け付けて間に入ったんですね。日本人とかが入っていたんじゃなくて。でもニュースではすぐ変なふうに(報道され)、結構、嘘も乗せられて、とんでもないふうに見せられているんですよね」

タシ・テイフィキ
トルコ料理専門店「ハッピーケバブ」のオーナー
こう話すテイフィキさんだが、実は、ここ最近、クルド人に対して、具体的には「ハッピーケバブ」店に対して示される住民の態度に不快な思いをさせられていることも指摘している。テイフィキさんはクルド人に対するあからさまな攻撃的な態度を示す証拠として、「X」(元ツイッター)上に公開された数枚の写真を見せてくれた。
テイフィキさんの言葉には明らかに失望感と忌々しさが現れていた。実際は、埼玉県に住むクルド人の大半は合法的に滞在しており、一般の日本人と同等に税金も払っているからだ。

「みんなは多分、うちらが難民だから国からお金をもらっていると思っているね。でもうちらは誰も一人お金をもらってないよ。国から誰も一人1円ももらっていないよ。

うちらが所得税等など何も払ってないような感じで、すごい噂が出ているんだけれども、うちらが去年で川口市役所に払っている税金は15億円以上です。それでも市民たちには、うちらがまるで何にも払っていなくて、生活保護をもらっているように思われる。私たちは今年、仲間たちで決算書の写真を撮って、ツイッターとかで全部を載せて、ちゃんと税金を払っていますよと伝えたくて」

タシ・テイフィキ
トルコ料理専門店「ハッピーケバブ」のオーナー
テイフィキさんは、治安維持機関が日本人と在日クルド人の双方の人権を同等に擁護しているという説には疑問を呈している。
スプートニク: 川口市長が法務大臣に外国人、特にクルド人に対してあんなに厳しい対応を求めたのはなぜでしょうか?
テイフィキさん:川口警察署が一番悪い。ルールを守らない。例えば市民の若者がスピードを出しすぎる件などで、私たちがずっと連絡しているのに、誰も捕まらないの。私たちも国民の方の気持ちもわかるよね。子どもたちがいるからね。でも警察署に電話しても、警察がこっちに来ても、何もしていない。ただクルド人が関わる事件が起きたから、すごい大きなニュースになっている。
こうしたテイフィキさんの発言について、スプートニクは市民医療センターと警察にコメントを求めたものの、残念ながら、何の回答も得られなかったため、事実を裏付ける確証を得ることはできなかった。

川口市 住民とクルド人の間に深刻な問題はない

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スプートニク特派員は川口市の広報担当部と連絡を取ることができた。川口市はクルド人共同体の懸念とは裏腹に、住民は皆、協調して暮らしており、差別があったとする報告があっても、それは稀なケースであり、より広い問題を示すものではないという回答を寄せた。川口市側の回答は市長が法務大臣に打診した理由にも触れており、地元のクルド人の権利を意図的に制限するためではなく、医療などの行政サービスへのアクセスの簡素化が目的だったと書かれている。市立医療センター近くで起きた事件が原因で大臣に相談しにいったわけではないと市長室は強調している。
一般社団法人 日本クルド文化協会のワッカス・チョーラク事務局長の発言もこれと同様だった。
スプートニク:川口市や蕨市などに住んでいるクルド人が、市民や政権からの差別的な行為に直面したことについて何かご存知ですか?
チョーラク氏:それはないですよね。川口市民からそういう問題は一切いないし、協力的だ。
スプートニク:平和に共に暮らしてるという理解でよろしいですか?
チョーラク氏:そうです。別に問題はありません。
川口市も同協会も、報道が指摘している状況は控えめに言っても「誇張 」されているとの見方を示している。
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まとめると、埼玉のクルド人コミュニティが繁栄し、近隣の日本人住民と平和的に共存するためには、関係者全員により前向きなアプローチが要される。行政、住民、クルド人コミュニティ間の対話の促進、教育プログラムの改善、言語・就労支援サービスが発展すれば、文化の障壁も克服され、固定観念や誤解が消えて日本社会に溶け込みやすくなり、相互理解が深まるだろう。これらの目標が達成できれば、川口市と蕨市は異なるコミュニティがいかに共存し、共に繁栄することができるかを示す見本となるだろう。
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