【視点】日・EU安全保障・防衛パートナーシップはどんな点で「時宜を得ている」のか?
© 写真 : 外務省のSNSより。【視点】日・EU安全保障・防衛パートナーシップはどんな点で「時宜を得ている」のか?
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日本とEUは11月1日、インド太平洋地域で初の安全保障・防衛パートナーシップを結んだ。双方は、アジアと欧州の安全保障が「不可分」と定義し、軍事や経済安全保障の分野におけるロシア、中国、北朝鮮のつながりの深化を共通のリスクとして捉え、対応していくという。このパートナーシップについて、ロシア・政治情報センターのアレクセイ・ムヒン所長は次のような考えを示した。
「私が思うに、このパートナーシップの隠された目的は、EUがウクライナへのさらなる支援に日本を引き入れ、ウクライナに対する自分たちの義務の一部を日本に移したいと考えていることだ。欧州からウクライナに供与される軍事装備の備蓄は枯渇しつつあり、この点で日本の支援はきわめて時宜を得たものとなるだろう。もちろん、このパートナーシップは軍事技術協力、相互支援、情報交換などを意味している。一方で、私の意見では、ここで重要なのはやはり、安全保障分野における日本のポテンシャルの活性化と、日本を欧州危機に引き込もうとする動きだ。これはロシア領内に北朝鮮の部隊がいるという情報の誇張とも関係しており、これは韓国をこの戦略に引き込む理由となっている。日本に対しては、ドナーとして引き込むという形を見つけたが、韓国に対しては別の形を見つける可能性がある。しかし、それらは同じ目的のために用いられる。これは『連絡船』の原則であるため、アジア太平洋地域の力の均衡にはいかなる影響も与えない。EUは日本を戦略的同盟国として引き入れることで、自分たちの資金の一部を浮かせ、それを中東に投入することができる。このパートナーシップは、日本が自分たちは西側世界の一部であり、志を同じくする者たちが集まるチームのれっきとしたメンバーであるとさらに強く感じる機会を与える。日本企業にとってEUとの協力は有益だ。それは、防衛装備品の研究や開発のコストを削減できるほか、欧州の志を同じくする国々へ装備品を販売するチャネルを拡大できるからだ。今のところ日本は武器輸出には慎重だが、自民党は軍事装備の海外移転を現在の地政学的状況における重要な政治的手段としてみている」
なお、欧州研究所 社会政治研究部門の主任研究員、セルゲイ・フョードロフ氏は、日本とEUのこのパートナーシップを少し別の観点からみている。
「アジア太平洋地域は膨大な天然資源と人的資源、経済統合と高度な技術を有する最もダイナミックに発展している地域だ。経済学者の中には、欧州や米国東部の古い産業の中心地が徐々に衰退していくにつれて、世界の経済活動の中心がまさにアジア太平洋地域に移る可能性があるとさえ考えている人たちがいる。一方、これは領土紛争を抱えている地域であり、水などを巡って争いが行われている。そして、この地域での軍事衝突はすべての国にとって頭痛の種となる可能性がある。しかし、その場合、私は、日本とEUの軍事・政治同盟のようものが創設されるとは思わない。むしろこれは、EUがこの地域でより積極的な役割を果たすという意向の申し出だ。このパートナーシップそのものは、アジア太平洋地域の力の均衡を変えることはできない。なぜならそれは、一定の軍部隊の人員、兵器システム、海軍および空軍基地の増強といった、より具体的なことによって決まるからだ。一方、EUにとってこの地域で軍事プレゼンスを強化するのはかなり難しい。したがって、今のところこのパートナーシップは、同地域で自分たちの立場を強化するためにより緊密に協力し、これらの海域における中国の台頭を阻止することを目指し、台湾と一部の海峡に関する中国の主張に共同で影響を与えるという日本とEUの意向の宣言である。つまり、ここでは経済、政治、軍事的利益が交わっている。EUは外部監視者でいるのはなく、この地域で起こっているプロセスでより重要な役割を果たしたいと考えており、日本はEUを手伝うことができる。日本自体は、このようなパートナーシップを結ぶことで、もはや地域ではなく、国際的なプレーヤーとしての地位を高めることになる」
このパートナーシップは、「相互に指定した第三国」が参加するものを含む合同演習や寄港、防衛産業や宇宙安全保障分野における情報交換、サイバー脅威対策での協力、防衛装備品の共同研究や開発などを規定している。