日鉄の買収に国家介入 この先、外国投資家は米国を忌避?
© Getty Images / Anadolu/David Mareuil日本製鉄
© Getty Images / Anadolu/David Mareuil
サイン
国家安全保障上の理由からバイデン米大統領にUSスチールの合併取引を禁止された日本製鉄の森高弘副会長兼副社長は、これを不服を示し、今後、大手外国企業が対米投資を再考する恐れがあると懸念を表明した。
「世界はこの取引に注目している。同盟国の大手企業は、米国への投資と米国人の雇用を望んでいる、だが今となってはパートナーとして扱われるのか、それとも政治の駒として扱われるのか、疑問に思っている」森会長の、この寄稿は米紙ウォールストリート・ジャーナルに掲載された。同氏によれば、バイデン大統領が取引を禁止した本当の理由は、国家安全保障上の懸念というよりも、むしろ選挙で全米鉄鋼労働組合(USW)の支持を得ることにあったという。
こうした米政府の企業間取引への介入は、米国に投資する外国企業に影響を与えるのだろうか?スプートニクはロシアの専門家二人に話を訊いた。
モスクワ国際関係大学、経営・政治学部のアレクセイ・ズディナ上席講師は次のように語る。
「世界最大の鉄鋼会社である日本製鉄とUSスチールとの間では、長期にわたりに準備され、開発計画や販路拡大に関連した多くの労力と資金がすでに投入されている。だから、日本製鉄の副会長の不満はもっともだ。これが他の投資家の判断に影響を及ぼすかどうかは、いくつかの要因次第だが、主な要因としては、日本製鉄のケースが孤立した事例にとどまるか、それとも海外投資に影響を与えるトレンドへと変わるのか、ということ。あえてもう一つ説を挙げると。トランプ次期大統領のスローガンである『米国を再び偉大に』とは第一に、広範囲における経済保護主義の導入、第二に、国家安全保障に直接的または間接的に関連する、市場や経済以外の配慮すべき事案をより積極的に経済政策へ取り込んでいくことだ。こうした状況は、外国企業が対米投資計画に変更を加える可能性を高くする。これが実際にどのように機能するのか、トランプ新政権が一般的な損得勘定で動いていくのか、それとも米国が偉大になることに重点をおいていくのか、見ていく必要がある」
ロシア科学アカデミー経済研究所の主任研究員、ボリス・ハイフェッツ教授は次のように考えている。
「近い将来、私たちは米国経済の孤立化を目にするだろう。つまり『トランプノミクス2.0 』のはじまり。物事はそういう方向に進んでいる。日本製鉄とUSスチールの取引き中止の決定は、バイデン大統領によって下されたが、トランプ政権でも同じ事態になる可能性は十分ある。世界中の大企業がこの事態の成り行きを見守っている。だが、他の分野では、逆に、米国は、例えば半導体メーカーを誘致している。いずれにしても、これはトランプ氏の就任前の状況で、トランプ政権になったら何が起こるかわからないが、すべては客観的な現実、技術の進歩、外国企業が保有することになる資産の優位性などに左右されるだろう。このようなかたちの分裂、自国の経済的優位性のみを強化する米国のやり方は、森氏が言うような結果を招くかもしれない。中期的にみると、特定の企業が優位になれるよう何らかの免除措置を講ずる可能性もあるかもしれない。ただこれは、いわゆる経済ナショナリズムと呼ばれるもので、関税をかけ、労働力、商品、資本の移動に制限をかけることで、国が経済、労働力と資本の形成をコントロールすることを優先する政策である。しかし、これがいつまでも続くはずはない。最終的には、国際分業と国際協力の方が、経済的孤立主義に勝る利点があるのだから」