INF全廃条約破棄、日露平和条約交渉にとって悪影響か? プーチン大統領の年次教書演説を読み解く

ロシアのプーチン大統領は、20日に行なった年次教書演説で日本について言及し、日本との政治的、経済的な相互関係を拡大させ、平和条約の締結を目指すと述べた。日本に対して前向きなアプローチを見せたプーチン氏だが、演説の国際関係のほとんどの部分を、米国の中距離核戦力(INF)全廃条約からの離脱と、その結果として生じる諸問題に費やした。この問題は、間接的に日本にも影響してくると見られている。
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プーチン氏は年次教書演説の中で「(米国は)自身でルールを逸脱しておきながら、それを正当化しようとし、犯人決めをする」と述べ、米国のロシアへの言われなき責任追及は、INF全廃条約から離脱するためのこじつけだとして、米国を批判した。またプーチン氏は、米国の中距離ミサイルがヨーロッパ諸国に配備されるなら、ロシアを脅かすミサイルシステムの意思決定に関わる中枢が位置する地域すべてを対象に、ロシアも鏡のような措置をせざるを得なくなる、と警告した。

日本のイージス・アショア配備 河野外相「INFに違反しない」と断言【動画】
演説の中でプーチン氏はアジアについては触れなかったが、ロシアはもちろん、アジアの安全保障を注視している。ロシアの安全保障政策に詳しい軍事アナリストの小泉悠氏は、INF全廃条約が完全に破棄された場合、「ロシアは極東に地上発射巡航ミサイルを配備するだろうが、日本に対する脅威度は大きく変化しない。もともと日本はロシアの空中・海洋発射型巡航ミサイルの射程に入っている」と指摘している。

5日、ロシアのラヴロフ外相は、日本に米国の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」を配備することは、INF全廃条約に違反していると述べ、イージス・アショアは表向きはミサイル迎撃、防衛のためだとしているが、実際には巡航ミサイル「トマホーク」の発射が可能であり、攻撃用設備として使えるものだと指摘した。

それに対し日本の河野太郎外相は20日の衆議院予算委員会の答弁で、日本はそもそもINF全廃条約の参加国ではないため、「イージス・アショア」の日本への配備は、条約違反であるはずがない、日本はどんな義務も負っていないという見解を示した。

しかしロシアにとっては、日本の義務の有無が問題なのではない。日本に配備されるイージス・アショアが、米国のグローバル・ミサイル防衛システムの一部であり、ルーマニアとポーランドに配備されているのと同様、ロシアに向けた中距離ミサイルの発射装置として使われる可能性があることが問題なのである。

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日露両首脳は、平和条約締結のためには、日露双方とも信頼醸成の機運を高める必要があると述べている。しかし、イージス・アショア配備の問題はもちろん、ロシアにとって信頼感を高める材料にはならない。ヨーロッパだけでなく、ロシアがアジアに対しても「鏡のような対応」をするという可能性を否定することはできない。このことは日露間の領土交渉をいっそう、克服困難にしてしまうかもしれない。

小泉氏は、「米国が対中国用の中距離ミサイルを日本に配備した場合、ロシアの反発を呼ぶ恐れがある。ロシアはイージス・アショアの場合と同様、日本がロシアに対して敵対的な姿勢をとっているとして、平和条約交渉でさらに強硬に出てくる可能性が高い」と話している。

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