「東京はこの条件に賛成するでしょう。今後大きな損失を避けるために、新たな合意を確実にしたいと目論んでいるからです」と、経済学博士候補でロシア科学アカデミー極東研究所日本研究センター上級研究員、モスクワ国立大学グローバルプロセス学部上級講師のヤナ・ミシェンコ氏はコメントする。ミシェンコ氏は「新しい日米貿易協定は東京がワシントンに一方的に譲歩したように見えます。けれど私は、これはそれほど目に見えて単純ではないと思います。日本政府は、日本車の関税を最大25%引き上げるというトランプ大統領の脅しを真剣に捉え、結果的に現在の2.5%で合意するほうを選んだのです。新貿易協定には自動車関税は現在と同じ数字で明記され、それによりアメリカは後で同関税を引き上げることはできなくなります。このように、東京は経済戦略において「小さな悪」を選び、懸命な行動をしています」と語る。
米ロバート・ライトハイザー通商代表はG7において、日米合意により米国産農産物の日本への年間輸出は、現在の70億ドル(約7千350億円)から140億ドル(約1兆4千700億円)まで増え、アメリカの牛肉・豚肉・小麦・乳製品・ワインなどの生産者の手助けとなる、と発言した。
国立研究大学「経済高等学校」および慶熙大学校「アジア経済・政治」の共同プログラムリーダーであるデニス・シェルバコフ氏は、新たな日米貿易協定は大部分においてアメリカの関心に応えるものだが、日本は有利な将来を見越して調印する、と考える。同氏は「日本は自動車輸出に懸念している。新たな貿易協定により、アメリカの安全を脅かす輸出者リストから日本の自動車メーカーを外す問題が解決されるかもしれない。そうなれば、新貿易協定はアメリカにとっても、日本にとっても有利だ」と語る。
調査会社「インスタント・インヴェスト」金融市場・マクロ経済分析担当のアレクサンドル・チモフェエフ主席も、同じように日米貿易協定を双方に有利なものと評価している。「日本の農業ロビーは大変強く、アメリカへの市場開放に長らく抵抗してきました。日米の経済状況というのは、一定期間損失を出しながら貿易する力をもっています。両政府は金銭的に自国の農業を支援できるからです。現在、市場の問題は前面に出ており、東京とワシントンは、結果的に全体の貿易量を増やすために双方のクレームを減らすことを決めました。徐々に、(農業)支援に費やしたコストは収入で相殺されるでしょう」。
チモフェエフ氏はまた、「これはもちろん、米中の貿易戦争のように、急激な関係悪化で貿易量が下がるよりも好ましいことです。米中はまだ袋小路にいますからね」と指摘する。
「米中問題は、知的所有権の根本的な矛盾であり、今のところ、この問題を解決できるような案は誰も出していません。東京とワシントンの経済矛盾は明らかな対立構造をもっていません。日米の例は、意見の相違はありながらも、交渉は可能であり、貿易戦争そのものが目的ではないことを示しています」