交通に厳格な制限がしかれたことで乗客数は急減し、これがもちろんのこと観光業界、小売業界に影響を与えている。最大の痛手を蒙ったのは中国南方航空。同社の武漢への乗り入れ機の30%がカットされた(武漢は新型コロナウイルスの感染者が最初に確認され、またウイルスが拡大した都市)。年間2500万人の利用があった武漢空港は1月23日に閉鎖されてしまった。
ところがウイルスが経済に打撃を与えたのは観光業にとどまらなかった。湖北省(省都は武漢)は工業生産が集中する重要な拠点でおおそ500の施設があり、そのうち44か所が米国の、40か所が欧州企業のものだ。JETRO(日本貿易振興会)の調査では武漢とその近郊には日本企業およそ160社が操業しており、その半数近くが自動車生産関連。日産、ホンダ、プジョーは中国にいる駐在員の一部を帰国させようとしている。半導体製造装置の生産では主導的な東京エレクトロン社も同様の措置を検討している。スウェーデンのアパレルメーカー「H&M」も13の店舗で営業を停止した。マクドナルドも数か所のオフィスで営業を停止し、スターバックスも数店舗を一時的に閉めた。
1月25日、上海ディズニーランドが閉園。上海市にあるオフィスビルは軒並み2月9日まで閉鎖されている。こうした例は後を絶たない。世界のシンクタンクは新型コロナウイルスが世界経済全体にどう影響するか、様々な予見をたてている。米投資銀行「ゴールドマンサックス」は、ウイルスの拡大が伝染病にまで発展した場合、原油需要が落ち込む恐れがあるとしている。試算では航空機燃料の需要縮小から日量26万バレルの需要減となるという。
ブルームバーグの調べではウイルス拡大はiPhoneの新型の生産にも影響を及ぼしかねない。武漢市から500キロ離れた場所にはiPhoneの部材の主要なサプライヤーであるフォックスコン、ペガトロンの2社の工場があるが、この両工場が封鎖、操業一時停止の事態になるかもしれないからだ。
投資会社「スカイウィンド」の主任アナリストのアレクサンドル・ポタヴィン氏は、中国経済の鈍化はグローバル経済に影響するとの見方を示し、次のように語っている。
国際ブローカー企業「アリパリ」の上級アナリスト、アンナ・ボドロヴァ氏は、感染が現在の速度で拡大した場合、最初に起きるのは需要の縮小として、次のように語っている。
「市民がお金を使う先は治療、薬、ケアになり、他の買い物を制限するようになります。これは小売販売に影響がでてきます。まず工業製品の購買量がダウンし、エネルギーの消費量が減ります。感染が大規模に拡大すれば、近未来では医療はこれに対処できません。ですから世界経済への影響も同じく大規模となり、成長率が0.5%ダウンというところまで行くでしょう。中国経済の鈍化を投資家らは過敏に危惧しており、ほんのわずかでも危険を察知した場合、リスク回避へといっせいに走ります。資本をより安全な、金や円などへと切り替えようとするでしょう。新型コロナウイルスは世界経済がどの程度堅牢であるかをテストしているとも言えます。」
この事態に中国民は怒りを爆発。中国政権はこの苦い経験から、現在、最大限の開示性を発揮し、断固とした策を講じようとしている。感染拡大が比較的スピーディーかつ最小限度の損失で抑えられれば、中国指導部にとっては大きなプラスとなる。だが拡大が進んでしまえば逆の結果になることは間違いない。