パネルディスカッションのモデレーターはロシアで起業したSAMI To Japanの牧野寛さん。彼も東京外国語大学の卒業生だ。
このイベントでイーゴリさん、杉浦さん、牧野さんは主にロシア語を学ぶ学生に対してスタートアップとは何なのかを説明し、スタートアップのビジネスには不安定性がつきものだというステレオタイプを払拭しようと試みた。また、イーゴリさんと杉浦さんは、学生が自分で経験して納得できるよう、希望者に自社での研修を提案した。しかも、研修にロシア語の知識は必須ではない。ディスカッション後、学生は登壇者とフランクに話をすることもできた。
LikePay:どうやってSNSで「いいね」を稼ぐか
開発者は、インスタ映えの絶景スポット写真をさかんに投稿するSNS愛好者には携帯アプリLikePayは絶好のツールとなるはずと見込んでいる。LikePayの原理は簡単だ。ユーザーはツイッター、フェイスブック、インスタグラムに写真を投稿する際にお店の#ハッシュタグを付ける。そうすることで、投稿に付けられた「いいね」を割引ポイントに交換できるというものだ。さらにLikePayには検索ツールとしての機能もある。他の人が投稿した写真をもとに新しい写真スポットを探したり、貯まったポイントを使うスポットを探したりできるのだ。
イーゴリさんによると、このサービスは日本人が大好きなクーポンと十分に競争できるという。なぜなら、施設によって「いいね」の価値は異なる可能性があるからだ。つまり、1「いいね」は必ずしも1円とは限らず、5円だったり、それ以上になる可能性もあるのだ。
どこでこのアイデアは生まれたのか?
イーゴリさんは次のように話す。「どうして自分の会社を作ろうと思ったのかというと、根底には自分の経験があります。かつて渋谷を散歩していたときに、とても気に入った美容院を見つけたんです。そこは通常より高価だったのですが、サービスの質があまりにも印象的だったので、今でもお世話になっています。当時、私は12人の友人にこの美容院のことを話しました。すると全員がそこに行ってみたんです。この感動を共感した友達もこの美容室に来るようになって、さらにこの友達は自分の友達に紹介しました。これは、人と人の共感で集客できている一つの美容院のストーリーとなりました。そのときに、同じことがSNSでもできると思いました。そんなストーリーを世界中で増やしたいと思ったのがLikePayの始まりとなったのです。」
ちなみに、イーゴリさんにとってLikePayはビジネスで自分を試すというだけでなく、ロシアと日本を身近にする方法でもある。「ロシア人の創造力と日本人の確実に仕事をこなす特徴を合わせれば、必ず両国は理想的なビジネスパートナーになれると思います。LikePayを通して、このような両国の関係を目指していきたいと思います。」
成功と困難
イーゴリさんはまだ東京大学の大学生だった2018年8月にLikePayを設立し、当時、31の施設と協力の合意を結ぶことに成功した。彼自身、協力合意を結ぶプロセスはかなり大変だったと語る。それは彼が外国人だったからだけではない。彼によると、サービス導入の決定権を持つ店舗オーナーにアポをとるのが困難なこともあったという。また、Likepayの仕組み自体が理解できない人も多かった。まったく新しいアイデアであることに加え、オーナーがそもそもSNSを使っていないために、それがどのように機能するのかをまったくイメージできないこともあったのだ。しかし、イーゴリさんは自分のチームメンバーとともに、このプロセスを短縮する方法を探そうと、現在、作業を進めている。
イーゴリさんによると、最も大変だったのはビザの取得と口座の開設だったという。自分の会社を正式に登録する手続きについては、東京開業ワンストップセンターTOSBECで提供される東京都の無料相談が大きな助けになったという。
スタートアップは頭の良いお金持ちだけのもの…?
イーゴリさんはスタートアップを始めるために、アイデアがまとまっていないことや十分な資金がないことを恐れるべきではないと呼びかけている。彼自身も自分の会社をどうすれば立ち上げられるだろうかと関心を持つことから始め、そのテーマの各種行事に足を運び、さまざまな人と知り合った。彼によると、こうしたイベントは全体的なイメージをつかむ助けとなるほか、何よりも重要なこととして、思考プロセスを動かすことになるのだという。そのプロセスからは何らかのアイデアが遅かれ早かれ自然と生まれる可能性があり、それまでに得た知識や構築できた人脈を使えば、そのアイデアを実現していくことはより簡単になる。
VCVの新しい東京オフィスについては、次の記事でお伝えする。それまでにロシア企業ROBBOの日本支社オープンについての記事をお読みいただきたい。