新型コロナウイルス

新型コロナウイルスと「第2の冷戦」

米国が中国に対するプロパガンダ戦争をはじめた。トランプ米大統領は中国と共謀しているとして世界保健機関(WHO)を非難し、米上院は、中国政府が新型コロナウイルスの情報を「隠蔽」したと主張している。また、メディアでは、中国で感染拡大は抑えられていないとする報道がますます多くなっている。中国に対する米国の非難は「第2の冷戦」の前兆なのだろうか。「スプートニク」の評論家、アンドレイ・イリヤシェンコ氏の見解をご紹介する。
この記事をSputnikで読む

15日、米国の放送局「フォックス・ニュース」は「多くの情報筋」を引用し、新型コロナウイルスの「初期段階の患者」は武漢市の研究所職員だったと報じた。同放送局によれば、ウイルスはコウモリから研究所の職員の1人に伝染した。そしてその後、この職員から武漢市の住民にウイルスが広まったという。

フォックス・ニュースは、研究所の活動は「ウイルスの特定とその戦いで中国と米国は同等または米国より勝っているのを示す」ことが目的だったと指摘している。

コロナ批判の矢面に立つ世界保健機関 何が上手くいかなかったのか?
トランプ大統領は、これについて記者団から質問を受けたが、この情報を肯定も否定もしなかった。大統領は「様子を見てみよう(中略)我々はこの恐ろしい状況を徹底的に調査している」と述べた。なおマスコミによると、米情報機関が調査を行っているという。

武漢ウイルス学研究所の中国人研究者らがコウモリのウイルスを研究していたという情報は、秘密でもなければセンセーションでもない。このことに関しては2018年5月の時点で中国の国営通信「新華社」が報じていた。

同通信社は「長期間ウイルスを媒介しながら、自らはウイルスに感染しないコウモリの免疫メカニズムの研究で、私たちは世界のリーダーの一員になったと自信を持って言うことができる。この研究には希望がある。それは発病せずにウイルスを媒介するコウモリから、ウイルスへの対抗の仕方を人間は学ぶことができるというものだ」と主張した。このテーマでの中国研究者の報告はさまざまな研究誌などで発表されている。

また、フォックス・ニュースの情報筋は、ウイルスの出現は生物兵器開発の結果によるものではなかったと指摘している。一方、同放送局の客観性を過大評価するべきではない。

ウイルスの自然発生についてはすでに専門家らが何度も確認している。

新型コロナウイルスの感染拡大を追跡する世界の主導的な専門家の1人であるトレバー・バッドフォード氏は、2月にこうした憶測について以下のようにコメントした。「新型コロナウイルスの起源が遺伝子工学に関連しているという証拠は一切存在しない。私たちには(ウイルスの)突然変異が自然な進化に完全に一致している証拠がある」。

一方、パンデミックの発生に中国が関与したという話は新たな展開を見せている。

パンデミックが米国を第二級の世界大国にする=専門家
以前、トランプ大統領とポンペオ国務長官は、中国が新型コロナウイルスの発生源だと強く指摘し、ウイルスは人工的なものだと示唆した。中国が武漢で発生した事実を意図的に隠したとする考えも広まった。現在は、中国人の犯罪的な怠慢がパンデミックを引き起こしたというさらにもう一つの説が広まっている。

いずれにしても、パンデミックの責任を中国に負わせたいという願望と、国際的なプロパガンダキャンペーンを展開しようとする試みは明白だ。

その兆候はすぐに現れた。米国の声明は欧州でただちに支持された。

英国のドミニク・ラーブ外務大臣は、新型コロナウイルスの拡大と中国との関係について質問され「危機後、すべてが今までとは違う状況になることは疑いの余地がない。そして私たちは、(ウイルスの)発生源と、ウイルスをどうしたらより早く阻止できたかという複雑な問題を問わなければならない」と語った。

トランプ大統領は、感染拡大の脅威に関する軽率な発言に対する責任から、明らかに逃れようとしている。

トランプ大統領は2020年2月末、「米国国民への脅威のレベルは低いままだ。私たちには世界でもっとも優れた専門家たちがいる」と述べていた。米国の新型コロナウイルスの感染者数は世界最多だ。この統計を背景に、トランプ大統領は大統領の地位を失う可能性がある。

さらに中国の死者数は、米国および欧州よりも少なく、死者数をめぐる状況に関しても中国に分がある。米国の死者数は3万5000人だが、中国はこの10分の1だ。米国の国際的評価へのダメージはかなり大きいため、当然、それを積極的な反中プロパガンダで補おうとする試みがなされている。

あわせて、他国への援助に関する中国の努力への評価が下げられている。

そのほかにも、中国は自国での感染拡大に決着をつけたとされるが、米国と欧州ではようやく「トンネルの先に光」が見え始めた段階であることを考慮する必要がある。そして、この点では、国際的な調査や損害賠償、情報の圧力など、中国に対するプロパガンダ的な攻撃は積極的に展開されることが確実に予想される。他に何が起こるか見てみようか。

コメント