新型コロナウイルス

コロナは日露関係にどう影響? 安倍氏は平和条約締結に間に合うか? 日露専門家の見解

安倍首相は再三にわたって自分の任期終了までにロシアとの平和条約締結を果たすと言い続けてきている。ところがコロナウイルスが、正確を期せば政府の感染対策が首相の支持率に極めて否定的な影響を及ぼしてしまった。パンデミックで日露関係の発展にも修正が加えられ、様々なレベルでのコンタクトは麻痺状態にある。絶えず変化する情勢の中でどういった状況の進展が期待できるだろうか? スプートニクは日露の専門家に見解を伺った。
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安倍氏 国民の支持を取り戻せるか?

取りざたされる安倍首相の早期辞任説について、スプートニクは明治大政治経済学部の西川伸一教授に見解を尋ねた。

「領土問題を解決して、平和条約を締結する。私とプーチン大統領の手で、これを成し遂げる決意」=安倍首相
内閣不信任決議案が可決される可能性はまずないと思います。それが可決されるということは自民党から造反票が出るということです。1980年、そして1993年のときと違って、そのような党内情勢にはありません。

一方で、安倍首相が総裁任期満了を待たずに辞任する可能性はあると思います。内閣支持率が10%台前半にまで下がって、これでは次の総選挙は戦えないという『党内世論』が高まれば、さらに公明党から同様の声が挙がれば、辞任に追い込まれると考えます。首相にとって一番面目が立つのは来年9月末の総裁任期満了で総理総裁の座を退き(前倒しもありえます)、新総理総裁によってただちに解散・総選挙が行われることでしょう。こうして勇退できるかは、それまで支持率が極端に下がらないかにかかっています。」

西川伸一氏 はこう語る一方で支持率回復と総裁4選というパターンもないわけではないとの見方を示している。

「偶然なのでしょうが、朝鮮半島情勢がにわかに緊迫していました。通常国会を閉じて国民の目を内政から『外』へ向けさせ、この『国難』に立ち向かえるのは自分だけだとアピールすれば支持率回復はありえると思います。内閣支持率は下がっていても野党の支持率は上がっていませんし、ポスト安倍と目される石破茂氏も岸田文雄氏も存在感はいまひとつです。そうなれば当然総裁4選を求める『党内世論』が形成されるでしょう。自民党議員にとって一番重要なのは、だれが総理総裁であれば次の総選挙で確実に再選できるかですので。」

安倍首相は今の段階では繰り上げ選挙を目的とした衆議院解散の可能性も自民党総裁4選の意図も否定している。日本のマスコミの調査した最近の安倍内閣支持率は36%にまで落ち込んだ。しかも「支持しない」と答えた人の割合は、2012年の第2次安倍内閣発足以降、最も高くなっている。朝日新聞が実施した世論調査では、安倍氏の4選を支持しないとする人は69%と多い。

露日関係は「安倍首相ではなく、国際関係の問題」

ロシアに詳しいジャーナリストの小林 和男氏は、コロナウイルスをめぐる状況が今日、国際関係を見直すことがどれだけ重要かあぶりだしたとして、次のように語っている。

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「今回のコロナ問題は世界の国々が協力していかなければならないことを教えてくれた貴重な体験だと思います。自分の国だけ良ければそれで済むという世界ではなくなったことを実に具体的に教えてくれています。これからの国々の指導者は世界全体のことが考えられる力を持った人物でなければならなくなります。具体的に言えばアメリカのトランプ大統領のような自己中心的な人物では、自国の利益、自国民の利益も守れなくなる時代になっていると思います。アメリカが世界のことを考え、ロシアや中国とも正常な関係を築くことができるようになれば、日本もロシアと平和条約を結ぶことができます。今は出来ません。

(従って、)安倍首相だからではなく、国際関係の問題です。安倍首相は国内のさまざまなスキャンダルが表面化して支持率が急落していますが、日本にとっては国際関係を冷静に理解できる指導者が登場するチャンスを作っているかもしれません。」

と同時に小林氏は日本が米国のミサイル防衛システム「イージス・アショア」の配備を断念したという事実にも着目している。確かに現段階では「日本がアメリカの指示に従わなかった」ことが何に起因するかはわからないものの、 小林氏はこれが 「日本とロシアの関係を見る上で大変興味ある決断」となったと確信している。

小林氏は日露の経済関係をいかに発展させても、安全保障問題の解決なきまま平和条約締結を死点から動かすことは不可能という見解に傾いている。なぜなら現時点では日本は諸島に米軍基地は出現しないことが保証できず、これがゆえに諸島の一部を引き渡すか、というまでの交渉もありえないからだ。

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安倍氏に代わりうる首相候補の石破 茂氏 と 岸田 文雄氏については、小林氏は 両者が「国際的な視野」を持っているとはとても思えないとし、問題は日本で慣例となってしまっている議員選出方法にあるとの見方を示し、さらに次のように語っている。

「岸田さんはコロナ問題を抱えた世界で日本をリードし国際的な関係を築いて行ける人物ではありません。後継者にはならないと思います。石破さんは冷静な判断ができる人物だと思いますが、今の困難な世界で行動できるようなブレインを抱えているかどうか私には分かりません。

日本の首相は広い国民の投票で選ばれるのではなく、狭い利権を持った政治家の利害関係で選ばれます。選ぶ方に国際的な視点がないのが最大の問題で、私は安倍さんの後継者に両手を上げて賛成できるような人物が登場するとは思っていません。日本の国会議員を現在の半数、あるいは三分の一に減らして、本当に尊敬されるようなエリートが議員になる体制になれば、真の愛国的なリーダーが生まれると思います。しかしこれは日本の諺で言う『絵に描いた餅』です。」

「せっかく達成された政治の相互関係も数年前のレベルまで下がってしまう」

ロシア科学アカデミー・極東研究所・日本調査センターのオレグ・カザコフ上級研究員はパンデミックが日露関係に極めてネガティブな爪痕を残したと考えている。

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コロナウイルスと言うファクターは、貿易取引量の減少から政治コンタクトや組織間交流の路線のコンタクトの凍結に至るまで日露関係のほぼすべての分野に著しい影響を与えたと思う。平和条約の対話も止まってしまい、これが日露関係全体の発展に否定的に影響している。なぜなら対話がないために政治の相互関係もせっかく達成されたレベルから数年前の段階まで下がってしまう恐れがあるからだ。軍事コンタクトはほぼゼロのレべルまで下がったし、特に2+2形式(国防、外務両省)の閣僚会議は行われていないというのは良くない。なぜなら安全保障は依然として焦眉の問題であり続けているからだ。アジア太平洋地域の問題も未だに未解決であり、米国の政治、朝鮮半島情勢など、これらすべて討議し、互いの立場を明らかにせねばらならないが、現在は何も行われていない。

ポスト安倍時代に日露関係の展望については、カザコフ氏は次のように語っている。

「安倍氏は二国関係の改善、領土問題の解決、平和条約締結に本当に真摯な努力を払ったし、それがゆえに時に自身の評判さえ損なった。所属の政党でさえ彼を批判した。次の首相の立場はよりプラグマティックになるだろう。政治対話の幻想は減り、互恵的貿易経済関係により多くの注意が向けられるはずだ。二国関係が急激に悪くなるとは思わない。日本の政治は極めて慣性の法則が働いているので、冷却化はするだろうが、危機的なものではないだろう。新しい人間が独自の視点とアプローチを携えて登場する事態には備えておかねばならない。それでも平和条約締結の展望は霧の中に残されるだろう。双方はこの先も自国の見解を主張し続け、立場を変えず、誰も譲歩を望まない。1956年の日ソ宣言に照らして双方ともが宣言の独自の解釈を主張し続けており、妥協はまだ見られない。」

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