2019/20シーズンにトゥトベリーゼ氏の指導する選手らは6つのすべてのグランプリシリーズ(GP)で勝利し、GPファイナルと欧州選手権では表彰台を独占した。しかし、こうした成績をもってしても46歳のトゥトベリーゼ氏の「毒コーチ」リスト入りは免除にはならなかった。記事が批判の矛先を向けたのは、そのトレーニング方法。記事は、トゥトベリーゼ氏が、教え子たちがある一定の年齢を超え、体型の変化が出てくる前にメダルを取らせてあとは放置していると批判されていることを取り上げ、若い選手とコーチとの「クローズした関係性」が時には摂食障害にまで至ることもあったと指摘している。
一方でエテリ・トゥトベリーゼ氏は、7月11日にオンライン形式で行われるISUスケーティングアワード2020の「最優秀コーチ」部門にノミネートされている。通信社スプートニクは、この相対する事態を受け、トゥトベリーゼ氏のプロとしての仕事を批判した雑誌ELLEの評価にどれほど正当性があるのか、コーチは自身の選手らの心理状態に責任を負わなければならないのか、検討を試みた。
これについてスポーツ心理学者で全露身体文化スポーツ研究所のオリガ・ティウノワ助教授は次のような見解を表している。
こうした一方でティウノワ助教授も、実際にはコーチはチームのムードメーカーであり、選手の心理状態、体調に大きく影響することも認めている。
「もちろん、トレーニングの中で選手は精神的にも、身体的にも傷付けられることがあってはいけません。理想としては、トレーニングの質と形態は、選手にも彼らの両親にも受け入れられるものでなければなりません。それは(ここがとても大切なのですが)両親は、トレーニング時外の若い選手の心の状態の形成にコーチと同じくらい大きく関わっているからです」。
心理学者のナジェージダ・マズロワ氏も、ホッケーやフリースタイルレスリング、競泳の選手に関わった経験を踏まえて、次のように強調している。
「コーチの変更は選手の当然の権利」
スポーツ界ではコーチを変更することは未だに一般的ではなく、むしろ、選手にとって、あるいはコーチにとって失敗とみなされている。メドベージェワやトルソワといったトゥトベリーゼ氏の教え子らが新しい指導者へ移籍することを決心したことに対し、メディアやファンたちはその責任の所在を明らかにしようと躍起になった。しかしティウノワ助教授は、選手にとってコーチの変更は、難しい過程ではあっても、極自然なことだという。
「コーチの変更は、言うまでもなく選手の権利です。競技者は躍進し続けることを望むからです。しかし、他のチームに移籍するためには正しい『手続きを行う』ことが大切です。これまで世話になったコーチの貢献を認め、コーチに対し、勝利や失敗から有益な経験を積むことができたことを誠実に感謝することが重要です。メディアはしばしば間違いを犯し、コーチやチームの変更をまるで選手が『やむを得ず迫られた』、または『背任行為』かのように大げさに報じます。そもそもスポーツそのものに、自己実現のために新しいリソースを探求するという特徴が基本にあるのです」。
フィギュアスケートは、長距離走などとは異なり、演技の時間が短いことから特に集中力が求められる、瞬発力型のスポーツだと言える。そのためフィギュアスケーターにとって特に重要なのは精神的な準備だが、それを十二分に保障できるのはコーチでも親でもなく、専門家だけだとマズロワ氏は強調する。
「スポーツ心理学者は、選手が張り詰めた心理状態に対処する上でどのスポーツ組織にも必要でしょう。選手が勝ち敗けに冷静に正しく対処するために必要なのがまさにスポーツ心理学者のサポートなのです。また、コーチと両親もまた、違う視点からアドバイスすることが大事です」。