マトリョミンとは
マトリョミンはロシアの民芸品マトリョーシカにテルミンの機能を収めたマトリョーシカ型テルミン。テルミンは1920年にソ連の発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミンによって作られた。しかし、マトリョミンが作られたのは、それよりもずっと後の1999年。作ったのは日本人テルミン奏者の竹内正実氏である。一風変わった改良型のテルミンは日本人とロシア人がお互いへの関心を高めるのに一役買った。2019年、テルミン発明100周年を記念するイベントが神戸で開催され、ソ連の発明家レフ・セルゲーエヴィチ・テルミンの曾孫が日本を訪れ、日本のマトリョミンアンサンブルと一緒に、一度に289台のマトリョミンを使って合奏し、ギネス世界記録を更新した。
アンサンブルについて:結成のきっかけと「ボル⑧」の意味
金木 由子さん:「カルチャースクールで共通の先生に習ったんですけれど、みんなが同じグループではありませんでした。結成のきっかけは仲の良いマトリョミン仲間が集まって、なんとなく練習をしているうちにグループになったような、自然な流れでした。」
マトリョーミンを始めるまで、誰一人としてロシアに行ったことはなかった。しかし、ロシア文化には全員がもともと関心を抱いていた。
上原 光子さん:「元々はロシアのチェブラーシカとか、マトリョーシカが好きだったんですけれども、そのマトリョーシカが楽器になっているのをテレビで見て、すごく衝撃を受けて、興味を持って、やりたいと思いました。調べたら、東京に教室があると知って、そこに通うことになりました。」
アンサンブル「ボル⑧」という変わった名前にはロシアとの隠れた繋がりがある。
金木さん:「メンバーが8人いるんですけれども、ロシア料理のボルシチ、シチは日本語で『7』なので、ボルシチからボルハチができました(笑)。」
どうしてマトリョミンを選んだのか テルミンとどう違うのか
テルミンはかなり高価な楽器である。そのため、マトリョミンはテルミンの演奏を試してみたいけれど、まだテルミンを買うことはできないという人にぴったりの選択肢である。
とはいえ、マトリョミンも安いものではない。およそ4万円~5万円はする。マトリョミンは普通の楽器店に置かれていることもあるが、オンラインで買うのが最も便利だ。マトリョミンは自分でデザインすることもできるが、その場合は価格も上がる。「ボル⑧」の上原さんは、ちょうどマトリョーシカの白木販売と絵付けをしている。
上原さんによると、技術的に見ると、マトリョミンとテルミンには次のような違いがあるという。
上原さん:「テルミンと機能は同じですが、テルミンには音程と音量を変えるアンテナがあるのに対し、マトリョミンは音程を変えるアンテナだけ。テルミンと違い、片手を動かして演奏ができるところは簡単ですが、演奏の仕方はテルミンと一緒なので、難しいところもあります。」
金木さん:「あと、テルミンは基本的に立って演奏するのに対し、マトリョミンは座って演奏をするので、少し安定感があるかな。またテルミンの場合は、複数で演奏しようとすると。電波の干渉があるので広い場所が必要です。マトリョミンの場合も、ある程度の距離は必要ですが、テルミンほどの広い場所はいりません。大勢でのアンサンブル演奏には、マトリョミンのほうが向いています。」
マトリョミンの演奏は難しいのか
上原さん:「音を拾って演奏することは、簡単な曲なら一回目で弾けるようになると思います。ただ演奏技術を向上させ、美しく奏でることを目指すと、長い時間がかかります。」
上原さん:「ロシアに演奏旅行に行きました。モスクワやサンクトペテルブルグ、その他マトリョーシカを作っているセミョーノフという町に行って、マトリョミンになる為のマトリョーシカを作っている職人さんたちの前で演奏しました。ロシア民謡を演奏するとおばあちゃんが涙を流しながら聴いてくれたり、一緒に歌ってくれたりして、とても感動しました。」
その感情も理解できる。マトリョミンの音は「お化けの歌声」を思わせるのだ。音の中に可笑しさ、面白さ、無邪気ささえ感じられる一方、響きはとても悲しくノスタルジックなのだ。
通常「ボル⑧」は、年間10回の演奏を行っているが、今はコロナ禍でコンサートを一時中止している。メンバーは、11月に人形の家で演奏できたことをとても嬉しく感じていた。今は、それぞれが自宅での練習に励み、今後のコンサートの開催を楽しみにしている。今後は、他の楽器との面白いコラボなどをしてみたい。オンラインでもできたら楽しいと思う、と希望を抱いていた。