南クリル諸島に外国からの投資を呼び込むロシア

ロシア政府は日本との対話において新たなアプローチを見せた。7月25日、ロシアのミハイル・ミシュスチン首相は、クナシル島(日本表記は国後島)を訪問した中で、クリル諸島(北方領土と千島列島)に無関税特区を創設する問題について、またクリル諸島で活動する用意のある外国人投資家のために幅広い特恵条件を提示する可能性について検討していることを明らかにした。この発案にはどのような思惑があるのか?
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1年ほど前、菅義偉氏が首相の座に就いたとき、露日の政治対話はかつてのような論調に戻ることになった。安倍晋三前首相がつないでいた南クリル諸島問題の早期解決に向けた望みは断たれてしまったのである。そして日本からは再び、4島の帰属の問題を解決した後、ロシアとの間で平和条約を締結する必要があるという聞き慣れた主張が聞かれるようになった。

一方、ロシアでは、隣接する国との国境画定作業を除くロシア連邦の領土割譲の禁止を条文に盛り込んだロシアの憲法改正案が採択されたことで、北方問題解決に向けたアプローチにも影響が及んでいる。露日の国境は国家間の協定レベルでは画定されていない。平和条約の中で国境線を画定するという作業が、国際法に基づいたクリル諸島の帰属問題の解決法となる。しかし、ロシアの世論では、この憲法改正は南クリルの2島はもちろん、4島の返還を認めないものであると捉えられている。

新型コロナウイルスの感染によるパンデミック、それに伴う社会・経済問題の発生、米国の政権交代、プーチン大統領と安倍前首相の対話および新たなロシアの現実を注意深く読み解く必要性に迫られたことなどから、両国の対話は必然的に休止されることとなった。

しかしながら、6月初旬、プーチン大統領は世界の通信社の指導者らと会見した中で、再び平和条約の問題に触れ、「ロシアの憲法は改正された。このことを考慮に入れる必要があることは当然である。しかし、平和条約締結に関する対話を中断すべきだとは考えていない」と述べた。

プーチン大統領 クリル列島の経済に日本を引き込むという前例のない提案を発表
また3週間前、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相も、ロシア側も平和条約の締結に関心があることを確認したが、この問題についての協議は現段階では行われておらず、両国間の多くの対話ルートが絶たれた状態となっていることを認める発言を行った。首相の発言から判断して、日本側も協議を拒否している訳ではないが、従来の立場を貫く姿勢をとっている。

6月23日、プーチン大統領は、クリル諸島の経済活動に日本を引き込む「ユニークかつ前例のない」提案を行った。その後、ミシュスチン首相はクナシル島で、クリル諸島全土で無関税特区―つまり関税、税金の支払いなしで、また外国製品に対しては非関税障壁を設けることなく輸入できる特別区を創設することが検討されていると具体的な発言を行った。さらに、投資家らに対しては、税金や納付金の一部を減免することが提案されている。首相は、これについて、欧米のものを含む投資家にとって、また日本の投資家にとっても良い決定になる可能性があると強調した。しかしここが非常に大きな政治上のポイントで、ロシア政府は外国人投資家への呼びかけにおいて、日本を対象にした特別な措置を設ける用意はないとしている。4島で露日が共同経済活動を行うという以前のアプローチはもはや状況に重要性を失っている。

ロシア外務省 2島を日本に譲渡するソ連の計画についてコメントを発表
しかしこの提案は日本の投資家には受け入れがたいものであるようだ。というのも、これはロシアの主権を認めることになりうるいかなる行動も除外してきた従来の日本の立場をなし崩しにするものだからである。しかし、この提案は他の国の投資家にとってはかなり魅力的なものに思われる。過去にもこのような例はあり、その都度、日本政府に、クリル諸島での第3国のビジネスに関する外交措置に発展するような激しい抗議を呼び起こしている。

ミシュスチン首相は、外国のビジネスをクリル諸島に呼び込むための提案に関しては、モスクワに戻った後、引き続きプーチン大統領と協議を継続すると言明した。つまり、きわめて早い時期に、最終的な決定が下される可能性もあるということになる。

ロシア政府は日本政府との間で平和条約締結に向けた対話を再開する用意があるとしながらも、自らの立場を非常に強硬なものにしている。

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