日米韓の協議で新しい議題や進展はあっただろうか?
北朝鮮はまず、9月11日と12日に新型の長距離巡航ミサイルの発射実験を行った。これは、13日から東京でスタートした北朝鮮問題の解決に向けた日米韓の協議直前の出来事だった。3カ国協議の最終日となる15日、北朝鮮は短距離弾道ミサイルを2発発射させ、ミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。北朝鮮のミサイルが日本のEEZ内に落下するのは、2019年10月以来。
このような出来事が、日米韓3カ国協議の内容に大きな影響を与えた可能性がある。しかし、伊豆見氏によると、ミサイル発射によって協議の内容が深刻なものになることはなかっただろうと確信している。
伊豆見氏:「今回の協議は、一つは、2018年9月19日に南北の間で平壌共同宣言というのが結ばれて3周年になりますので、その前に日米韓で対北朝鮮の政策を話しておこうということだったみたいなのですけれども、特に新しいものはなかったと思います。
ただ、ちょうど協議をやっている時期に北朝鮮が最初に巡航ミサイルを11、12日に発射実験をやって、さらに15日には今度は短距離弾道ミサイルを発射実験やりましたので、どうしてもそのミサイルの脅威についての話にはなりました。 しかし、それは巡航ミサイルと短距離弾道ミサイルでしたので、ICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験や核実験に比べると、脅威の度合いがものすごく小さいのです。ということで、そんなに深刻な話が日本とアメリカと韓国との間であったということにはなっていないようです。」
なぜ今実験が行われたのか? 北朝鮮は誰にシグナルを送ったのか?
専門家らの間でも、発射実験に対する評価は様々だ。米国へのシグナルという説もあれば、日本への直接の脅威という見方もある。伊豆見氏は、今回の北朝鮮の実験は、現在の「南北間のミサイル開発競争」を示すものであり、実際に日本を狙ったものではないとみている。
伊豆見氏:「これは明らかに北朝鮮が韓国を意識してやった実験だと言っていいと思います。巡航ミサイルに関して言うと、先に韓国がその射程距離を1500 km の巡航ミサイルを既に開発して持っているのです。で、北朝鮮の主たる目的は、やはり、韓国の持っているミサイルに追いついて、自分も同じようなものを持つということだったと思います。だから、韓国と同じく1500 km の射程距離を持つ巡航ミサイルを今回出しました。
もう一つの短距離弾道ミサイルですけれど、これは、恐らく、プロトタイプがロシア製イスカンデル M だろうとみんな見ているわけですが、このイスカンデル M から韓国も「玄武 2」(ヒョンム)というミサイルを作っていまして、それは射程距離が800 kmぐらいあるのです。で、北朝鮮は今年の3月25日に今回と同じような短距離弾道ミサイル、イスカンデルタイプのやつの発射実験をやりました。しかしその時は600 km だったのです。今回、15日に発射したものは800 km になりました。なので、韓国が持っている同タイプのミサイルの射程と合わせたということだと思います。北朝鮮は、韓国のミサイル能力に強い懸念を持っているようです」
発射のタイミングについて、伊豆見氏は、9月平壌共同宣言の採択日(2018年9月19日)に関係があるとみている。また、韓国の文在寅政権は任期満了が迫っており、北朝鮮との関係を進展させることに関心を持っているが、韓国もその採択日を迎える直前に弾道ミサイルの発射実験を行っている。
伊豆見氏:「韓国の文在寅政権にとってこれが最後の南北の合意記念日なのであって、再びスポットライトを浴びる時なので、恐らく、韓国の方が何らかのプロポーザルを出してくるはずです。そうすると、そこから後は南北関係が前進する、南北間の経済協力を実現するなどといった色んな話がこの後出てくる可能性があります。
何故かと言うと、文在寅政権は来年の5月9日で終わりです。時間は殆ど残されていませんので、従って、この9月19日以降は南北関係前進させようと南も北も両方考えているようですので、だとすると、その前にある程度プロヴォカティブなものになりますけれども、ミサイル発射みたいのはやっておいた方がいいということで、今回、北朝鮮は巡航ミサイル、短距離弾道ミサイルをやりました。
一方、韓国もこの時期、9月19日の前に SLBM 、潜水艦から発射するタイプの弾道ミサイルの実験をやりました。ですから、9月19日の前にやっておくというのが韓国にとっても北朝鮮とっても意味があったと思います。」
日本政府は発射実験に関連して何か特別な措置をとるだろうか?
しかし、日本のメディアでは、11日と12日に発射された巡航ミサイルは1500キロメートル先の標的を命中できるとされていることを指摘する声が多い。これが事実であれば、このミサイルは日本のほぼ全域を射程圏内に収めることになる。これにより、日本政府は警戒を強めているが、日本の指導者は真の意味での報復措置を行うだろうか?
伊豆見氏:「日本政府、菅内閣として特別な、個別の措置を取ることはないと思います。今回北朝鮮にとって重要だったのは、今ちょうど自民党の総裁選挙がこれから始まろうとしていることです。17日に告示、選挙は29日。そうすると、17日以降、各候補者の間で色んな議論がなされるわけです。今、4人候補者が出ていますけれど、その中で、当然、北朝鮮問題というのが質問で出ます。普通だと今、日本のマスメディアの関心は拉致問題に限られています。ところが、今回、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを日本の排他的経済水域(EEZ)の中に入れましたから、これは、やはり、日本にとっての脅威だと認識されました。また今回北朝鮮が発射した巡航ミサイルは、確かに、1500 km のレンジを持っているので日本全土をカバーできます。ですから、ミサイルの脅威について各候補者は無視できなくなったのです。すなわち、北朝鮮に対する政策の議論をする時に拉致問題に加えてミサイル脅威の話もせざるを得ない。北朝鮮から見ると、この自民党の総裁選挙の中で全ての候補者の関心が拉致問題だけに集中しないようにし、関心を分散させる。拉致問題の他にミサイル問題を別に作ったという、そういう意味合いがあると思います。」
スプートニク:自民党総裁選の4人の立候補者のうち、対北朝鮮政策の観点から最もふさわしい候補者は誰だと思いますか?
伊豆見氏:「難しいと思いますけれども、面白いのは、河野太郎候補だと思います。何故かというと、河野さんを石破茂さんがサポートすることになったわけです。石破さんは唯一このメンバーの中では拉致問題の解決のためということでもありますが、平壌と東京にリエゾンオフィスを作ることを提案している人なのです。河野さんが当選すると、やはり、石破さんの役割というのが大きい、石破さんの影響力が大きい。石破さんは、もちろん、外交安全保障に相当影響力を持つことになると思います。対北朝鮮という面でも影響力を持つでしょう。そうすると、河野内閣ができると、北朝鮮に対するアプローチとして従来とは異なり、リエゾンオフィスを作ろうと、そういう提案をする可能性があります。そうすると、北朝鮮もそれに対してある反応を示してくるかもしれないということで、河野候補が当選をして次の総裁総理になると少し対北朝鮮政策は変わるかもしれません。」