ウクライナにおけるロシアの軍事作戦の開始して以降、日本政府は一度ならず、ロシアに対する制裁の強化を宣言し、貿易における最恵国待遇を撤回し、ロシアが日本国内に持つ資産を凍結した。加えて、いくつかの製品の輸入を禁止し、その製品リストは定期的に調整されている。
しかしながら、日本がロシアの燃料エネルギーに対して厳しい制裁を講じるかといえば、その可能性は低い。ロシア科学アカデミー極東研究所日本研究センターの主任研究員、コンスタンチン・コルネーエフ氏は、いずれにせよ、今後数年のうちに、日本政府は具体的な行動を行うというよりは、そうした発言をするにとどまるだろうとの見方を示している。
「日本にとって、エネルギー安全保障問題は、無条件に優先的なものです。ですから、ロシアからのエネルギー輸出の削減というのは、日本政府の本来の計画には合致しません。そうなると日本は多大な支出をすることになるからです。複数の評価によれば、供給されなくなったロシア産の石油、石炭、天然ガスを補填するのに、(2020年代半ばまでで)年間20〜30億ドルかかるとされています。しかも、かなり高い確率で、日本は他の供給国―主にペルシャ湾岸諸国に対する依存度を大きく高めることになります」。
しかも、コルネーエフ氏は、もしも日本政府の気候問題担当の高官の宣言によれば、日本はエネルギー転換(およびカーボンニュートラルの達成)の計画を2050年までに実現する意向である点に注目している。
そしてこの計画を実現するには、巨額の投資(2030年までにおよそ2000億ドル)や高価な新技術の導入だけでなく、特に電力や輸送を中心とした一連の分野の構造組織を見直す必要がある。
コンスタンチン・コルネーエフ氏は、こうした数字から判断して、ロシアは(エネルギー供給国として)日本にとっての重要なパートナーであり続けるための「資源」を有していると指摘する。
「ロシアのこうした立場が安定したものであり続ける理由は2つあります。1つ目は、1000立方メートルあたりの天然ガスの値段が市場価格よりも低い(特にアジア向けにおいて)こと、そして2つ目は、液化天然ガスの輸送費を大幅に低下させることができる『輸送手段』があることです。ペルシャ湾岸地域やオーストラリアと比較した場合は特にそうです。以前(ロシアからエクソンモービルやロイヤル・ダッチ・シェルが撤退したあと)、日本の国際協力銀行の幹部が、日本はロシア国内での石油・ガスプロジェクトへの参加における原則を見直す必要があるとの発言を行いました。しかし、そうした意向が表明された後も、日本の政府関係者がこうした立場を確認することもなければ、そうした考え方が支配的になることもありませんでした」。
逆に、日本の大企業で主要なポストに就き、ロシアとのエネルギー協力問題を担当する元政府高官らの注意深い発言によれば、ロシアの石油・ガス部門からの日本企業の撤退は、きわめて否定的なシナリオと捉えられているとコルネーエフ氏は指摘している。
「ロシアのエネルギー部門に対する日本からの投資の大部分は日本政府の支援や指導の下で実現されてきました。ですから、日本政府はこのテーマでの制裁についての発言を、できる限り避けようとしています。しかも、非常に高い確率で、サハリン資源事業で空いた隙間にはたちまち中国企業が入り込むことになります。そうなれば、日本のビジネスがそこに戻ることはできないでしょう。ですから、おそらく日本は現在、自国の企業をサハリン1プロジェクト(SODECOが権益の30%を保有)からも、また同様にサハリン2プロジェクト(三井物産と三菱商事が併せて権益の22.5%を保有)からも撤退しようとはしないでしょう」。
コルネーエフ氏はまた日本の商船三井が、ヤマルLNGプロジェクトの枠内でのLNG船の建設に参画していることを指摘した上で、この事業も継続されていると述べている。
2020年、ヤマルLNGからは73,000トン(輸送船の容量)の液化天然ガスが日本に輸送された。これは、日本の港にArc 7級砕氷船が入港、荷下ろしするのはこれが初めてのこととなった。これは、液化天然ガスの長期的な供給量を増加する(地政学的情勢が正常化された場合)目的を持ったものであるとコルネーエフ氏は考えている。
また現在、北極圏の天然ガスプロジェクト「アークティックLNG2」にも、三井物産とJOGMECが出資するジャパン・アークティックLNGが10%出資しており、国際協力銀行が融資を保障している(総額最大40億ドル)。
コルネーエフ氏は、このプロジェクトからの日本の撤退も今のところ検討されていないと指摘している。
「というのも、年間最大200万トン(2020年代末には300万トンまで増加)のLNGの供給契約がすでに締結されているからです。ただし、新たなプロジェクトの一部については、今後ますます困難になるだろうことは認める必要があります。それら(サハリン3など、まだ合意の段階にあるもの、まだ投資に関して最終的な決定に至っていないものなど)については、協力が凍結される可能性は非常に高いです。つまり、今後数年間、ロシアからのエネルギー輸出は現在のレベルにとどまるか、若干の減少傾向を見せるかのどちらかでしょう。しかしながら、日本市場の12〜13%(情勢が改善された場合に、ロシアの燃料エネルギーが2020年代半ばまでに保障できるとして)という目標は、達成困難なものです」。
長期的な展望において、日本は全体的な輸入におけるロシア産エネルギーの割合を下げ、積極的に他の地域からのLNG供給国を引き込み、新たな再生可能エネルギーの発展に向けた路線を強化するものと見られる。しかし、現時点で、ウクライナにおけるロシアの軍事作戦が日本にとって重要なエネルギー資源供給国というステイタスを脅威に晒すものとはなっていないとコルネーエフ氏は結論づけている。
「日本にとって、これまで作り上げてきたロシアからのエネルギー資源の供給網を崩壊させることは有益ではありません。なぜなら、それは市場を失い、国のエネルギー安全保障に対する脅威を高めるだけでなく、それに伴う国内問題を引き起こす可能性を持っているからです。それは産業、商業、一般生活の電気料金(ただでさえ世界でももっとも高い国の一つ)の高騰につながるのです」。
このような理由から、日本にロシア産エネルギーの輸入をやめさせようという米国とEU(欧州連合)からの圧力も、思ったような効果を出せないままとなっている。少なくとも、今後1年〜1年半に大きな変化はないものと思われる。