筆者が参加した初回は、日本美術と漫画の関連性、ジャンルの多様性、過去と現在で共通するモチーフについての講義が行われた。ダニレンコさんは、擬人化された動物がコミカルに描かれている鳥獣戯画、江戸時代に発展した市民文化、庶民に愛された浮世絵、版画の技術、日本に特徴的な妖怪モチーフなど、日本美術の様々な側面から漫画との共通点をたどり、参加者は熱心に聞き入っていた。
3回目以降の講座では、20世紀を代表する漫画家である手塚治虫や石ノ森章太郎、水木しげる、鳥山明など、それぞれの生涯と作品、功績について紹介する予定だ。ダニレンコさんは「外国のコミックスはチーム作業で、シナリオライターが途中で交代したり、連載中に絵柄が大きく変わってしまうことがあるが、日本の漫画は作者が全ての中心であり、漫画家そのものがブランドである点が、ユニークで驚くべき点」だと指摘する。
特に好きな漫画はONE PIECEで、100巻を超えて連載を続けていることに尊敬の念を抱いているという。
「ONE PIECEがなければ、ここまで漫画に夢中になることはなかったでしょう。私は12年間読み続けていますが、全く飽きない。つまりここには特別な何かがあるということです。これだけ長く連載を続け、幅広い世代にとって漫画が魅力的であり続けていること、仕事量も含め、尾田栄一郎とはすごい人物だと思います」
美術史研究者ニコライ・ダニレンコさん
© Sputnik / Asuka Tokuyama
講座で取り上げる漫画家が20世紀の巨匠であることについてダニレンコさんは「意識的にそうした」と話す。
「最新の漫画は私が解説しなくてもみんなよく知っているし、気軽に買って読むことができます。それよりも一世代前の漫画家は、ロシアではほとんど知られていません。彼らを紹介することで、ロシア人に、漫画の歩んできた道を知ってもらいたいのです。例えば石ノ森章太郎を取り上げる回では、仮面ライダーやウルトラマン、ゴジラに代表される特撮の文化、円谷プロの誕生についても話す予定です。子どもたちは新しいことをどんどん吸収してくれるので、この講座がこれからどうなるか楽しみです」
最終回のテーマは宮崎駿。漫画家というよりは映画監督、アニメーターのイメージが強いが、ロシアにおいて、彼なくして日本の漫画を語ることはできないのだ。偶然にも講座の初日、ロシアでスタジオジブリの映画「思い出のマーニー」(2014年)が劇場公開スタートした。ジブリシリーズはロシアで根強い人気を誇っている。
講座は子ども対象ではあったが、歴史と文化背景をわかりやすく織り交ぜ、日本人にとっても勉強になる内容だった。会場からは中高生が積極的に質問する姿も。高校一年生のソフィアさんは、「漫画が大好きで、古いものも含めて日本アニメもすごくたくさん見ています。日本の伝統や文化を知ることは楽しいです。歴史も好きなので、漫画がどこから来たのか知ることはとても面白かった」と感想を述べてくれた。
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