この問題が検討される前提条件となったのは、電気自動車やハイブリッド車、カーシェアリングの普及、また若者を中心に自動車購入を控える傾向があることなどから、ガソリン税、軽油引取税などの燃料課税が減収していることである。電気自動車やハイブリッド車は大きく節約できるものであることから、その需要は次第に増加しており、このことは、燃料課税による税収を保証することがますます難しくなっているということを意味する。この100年、燃料課税のロジックは次のようなものであった。それはつまり、より長い距離を走行すればするほど多くの燃料を使うことになり、その走行した道路を維持するためにより多くの税金を支払うというものである。 新たな税制度の原則はこれよりもさらに単純である。つまり、走行した分だけ、税を払うというものである。もしこの「走行距離課税」が導入されれば、エコカーの販売促進プログラムの枠内での減税や免税措置の対象となっていた電気自動車とハイブリッド車にも、ガソリンを燃料とする自動車と同じ税率で税が課されることになる。そして、これにより、税収が増加することが見込まれている。
しかし、この場合、事情によりどうしても自動車を使わなければならない人や、自動車を単なる移動手段ではなく、貨物輸送など仕事上使う必要がある人がより多い税金を支払わなければならなくなるのである。ある調査によれば、自家用車の世帯あたりの平均年間走行距離は、東京都で2000キロ未満、大阪府では3000キロ未満となっている。それに対し、多くの都道府県では、この距離が6000キロを超えており、茨城県、福井県、佐賀県などではおよそ10000キロとなっている。したがって、「走行距離税の負担」は、概して、地方都市の住民が実感するものとなるのである。また新たな税制の導入に伴い、ただでさえ燃料高騰や仕事減で経営が厳しい物流業の出費が増えるという懸念もある。
一方、自動車税の原則を新たなものに移行しようとしている国は日本が初めてではない。というのも、EU(欧州連合)は2035年に、ガソリン車の販売を禁止する意向であることを明らかにしたことから、この問題はEUに加盟する27カ国すべてにおいて話し合われている。そして、走行距離による新しい税収システムの試みは、米国、オランダ、英国、ドイツですでに行われている。
「走行距離課税」について、スプートニクからのインタビューに答えた自動車問題に詳しいイーゴリ・モルジャレット氏は、次のような考えを明らかにしている。
「もし、今、自動車の所有者が支払っている税が、所有そのものに対するもので、その使用には左右されなかったのに対し、新たな税制はより論理的なものになります。自動車をより多く使うということは、より多く道路に負担をかけているということだからです。もしこれがガソリン車であれば、より多くの環境汚染を行なっているということになります。
一方で、システムはまだ実践のものとしては整備されていません。とりわけ、多くのことは、走行距離1キロあたりいくら支払うことになるのかを定める税率がどのくらいになるのかにかかっています。たとえば、イギリスでは、運転手に無税で3000マイルを与え、地方の住民には4000マイル与えることが見込まれています。そしてこの距離を超えた分が課税対象となるわけですが、その額はまだ設定されていません。このほか、電気自動車や低燃費車、省燃費車の所有者に対しては、この税の支払いを軽減するか免除すべきかということについてはまだ議論が続けられています。もちろん、少なくとも最初の段階で、これは自動車税の管理を大幅に複雑化するものです。
というのも、今のところ、税の徴収と管理の形式も方法もまだ決定づけられていないのですから。とくに、どのようにして、走行距離のメーターに関する情報収集を行うのかという問題があります。総じて、問題は、まだその解答よりも多く存在しています。社会はこの新たな措置に対し、警戒心を表していますが、この方向についての作業は行われています。電気自動車が増加し、多くの国の政府が二酸化炭素の排出量を削減しようと試みていることから、この傾向はますます現実的なものになりつつあります」。
2019年10月に、消費税が10%まで引き上げられたとき、日本社会からは大きな反響があった。
そこで、「走行距離課税」はその導入の時期、税率、輸送の問題、その他の局面を考慮しながら、日本政府によって、外国の経験を考慮し、社会の見解を見ながら、詳細に練られていくことになるのである。