「この種の協議は、米国がアジアで 北大西洋条約機構(NATO)のような構造を構築するためのさらなる1歩だ。米国は中国及び間接的にロシアを封じ込めるための広範な連合をつくるために、このようなたぐいの枠組み(クアッド=QUADやAUKUSも含まれる)を同盟国に奨励し、仕向けている。なぜならオーストラリアが取得している原子力潜水艦は、それを巡って米国とロシアの間にずいぶん前から法的紛争が存在している北極海航路を脅かすおそれがあるからだ。なお、米国は国連海洋法条約を引用して、特に南シナ海における航行の自由の意義を力説している。しかし、米国自体はこの条約を批准していない。また米国は、いま現在も中国の主要な貿易相手国だ。米中貿易額は増加しており、貿易収支は中国に有利だ…」
「エスカレーションの悪循環に拍車がかかるのは明らかであり、これには一定のリスクが伴うだろう。これまでに日本とオーストラリアが相互のアクセスや情報交換について合意していたことを考慮すると、日本にとってのリスクは、日本が古典的な軍事大国に変わることにある。痕跡として残っている『平和主義国』の国という日本の認識は、目の前で消え去りつつある。
オーストラリアにとってのリスクは、同国が『非核国』のイメージを維持し、すべての非核イニシアチブの当事国であり、これが東南アジア諸国連合(ASEAN)から非常に高く評価されていたことにある。しかし、原子力潜水艦は核兵器の不拡散に不釣り合いであり、地域の安全保障における責任ある一貫したパートナーのイメージを下げている。
もちろん、(原子力潜水艦の)エンジンは核兵器ではないが、平和的な原子力でもない。ちなみに、オーストラリアは日本と同じように米国の『核の傘』に頼っていたが、日米条約とは異なり、これがオーストラリアに関しては十分明確には記されなかった。そしてオーストラリアも、このテーマを特に強調しなかった。
地域全体にとってのリスクは、そのような半同盟が、そこで安全保障の問題が議論されていたインド太平洋地域のASEANを中心としたアーキテクチャのフィールドを侵食し、骨抜きにすることにある。そしてこれはロシア、中国、インドネシア、マレーシアなどの深刻な懸念を呼んでいる。多くの問題で特別な立場にあるインドについては言うまでもない...」