【視点】世界の半導体業界のトレンドに追いつこうとする日本

全世界の半導体産業は2024年までに5000億ドル以上を、2021年から2023年に建設が開始される84の半導体量産工場に投資する。これは、世界の2500企業と100万人以上の専門家をつなぐ国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が示した予測である。日本も、この「半導体競争」に後れを取らぬよう尽力している。
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SEMIは予測の中で、2022年に33の新規半導体製造工場建設が開始され、2023年にはさらに28工場の建設が開始されると指摘している。
最近、米国で採択された「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)で定められた2800億ドル規模の政府投資により、米国は半導体製造の新規設備投資のトップに立った。SEМIのデータによれば、2021年から2023年にかけて米国では18の新工場建設が開始される。
一方の中国では20の新規チップ製造設備が、また欧州、アフリカ、中東でも同じ時期に17工場、台湾では14工場の新規建設が計画されている。
東南アジアは日本と共同で、6工場を建設し、韓国では3工場が作られる。
かつては世界最大の半導体製造国であった日本は、現在、他の国々を追いかける立場に置かれている。
【視点】半導体競争に参戦する日本
2021年の世界シェアは9%にまで落ち込んだ。その理由は、過去30年にわたり、電化製品や部品の製造がグローバル化したことである。
つまり、一つの国で開発され、別の国で製造され、また別の国でチップを基に製品が組み立てられるようになった。
日本は数少ない例外を除いて、半導体製造のグローバルなシステムに入ることができなかった、あるいは入ろうとしなかった。
また別の要因としては、競争相手の増加(台湾、韓国)、垂直統合生産モデルの推進、国からの投資不足が挙げられる。
しかしながら、日本には半導体ビジネスをおこなっている有名なテクノロジー企業がいくつもある。キオクシア、東京エレクトロン、ルネサスエレクトロニクス、ソニーセミコンダクターソリューションズ、ローム、東芝などである。
また日本は半導体の研究開発への拠出額でもトップの国の一つとなっている
2021年6月、経済産業省は、経済および経済の安全保障における半導体の重要性を強調した「半導体・デジタル産業戦略」を発表している。
また同じ年の11月、日本政府は半導体産業基盤強化に7740億円を拠出し、そのおよそ半分が熊本県での台湾積体電路製造(TSMC)の新工場建設に充てられるものとみられている。
TSMCは、子会社であるジャパンアドバンストセミコンダクターマニュファクチャリング(JASM)が設立した後の2022年4月に、熊本県で工場建設を開始し、2024年末に操業を開始する。
日本におけるTSMCの2つ目の工場が建設されるかどうかについては、最初の工場の成功にかかっている。
工場では、既存の台湾のチップメーカーの22ナノメートルと28ナノメートルのプロセッサーおよびFinFET の12ナノメートルと16ナノメートルのプロセッサーを使用する。
FinFET技術は同じ消費電力で動作速度を速めることができ、あるいは同じ性能のまま消費電力を削減することもできる。
というのも、日本は、消費電力の低減への鍵として検討されているパワー半導体の製造でリーダーとなることを目指しており、これはエネルギー資源の乏しい日本にとって、特別な意味を持つものとなっている。
10月26日、日本のキオクシアと米国のウェスタンデジタルは、三重県四日市市にあるキオクシア工場で、半導体製造のための第7製造棟の竣工式を行った。
日本の経済産業省は、この施設に最大で929億円の補助金を出した。
第7製造棟は安全性と地震対策を考慮し、建設された。
一方、2022年11月半ば、日本では複数の大手企業が出資する次世代半導体の研究開発企業「ラピダス」の設立が発表された。
参画しているのは、トヨタ自動車、ソニー、NТT、ソフトバンク、キオクシア、デンソー、NEC、三菱UFJ銀行で、日本が世界の「半導体競争」に後れを取らないよう、企業設立には、合計およそ73億円の投資が行われた。
西村康稔経済産業相は、11月11日に記者会見を開いた中で、半導体は、経済安全保障確保の観点からきわめて重要なキーテクノロジーであることから、米国やその他の研究開発センターと協力しながら、日本の半導体産業の競争力を向上したいと考えているとし、
政府は投資に寄与し、日本での半導体サプライチェーンの構築を保障すると述べた。
12月13日、ラピダスと米IBMは2ナノメートルのノード技術の開発に向けたパートナーシップの締結を発表した。
両社による共同声明で明らかになった。これについてラピダスの小池敦義社長は、「日本が再び半導体のサプライチェーンにおいて真に決定的な役割を果たすようになるのに必要不可欠な、待望の国際協力だ」と評した。
日本政府はこのプロジェクトに欧州の企業を引き入れたいとしている。その例に挙がっているのが、極紫外線(EUV)リソグラフィ装置の製造で世界最大企業の一つであるオランダのASMLホールディングスである。しかも、この企業の指導部は、2001年から東京の本社ASMLジャパンをはじめ、8都市で営業をおこなっている。
IT系ニュースサイト「mobile-review.com」の管理者であるエリダール・ムルタジン氏は、「スマホや自動運転車から防衛技術、人工知能に至るあらゆる産業分野において重要な役割を果たす世界の半導体製造業界は、現在、グローバル化のフェーズに入っている」と指摘している。

「きわめて重要な部品の製造が限られた数の企業および地域に集中していることが、世界中の国を行き詰まり状態にしたことは明白で、『半導体安全保障』は地政学的分野のものに移行したのです。マイクロチップの開発と製造における日米の協力強化は、経済安全保障を確保し、供給サプライチェーンを強化しようという意向に基づくものです。また両国が、10ナノメートルとそれ以下のハイテク半導体製造のおよそ90%を占める台湾の情勢が悪化することを懸念していることも理由の一つです。

半導体製造業は、日米豪印クアッドの協力においても鍵となるものです。米国はさらに、韓国、日本、台湾で作る「チップ4」構想を打ち出しています。今のところ、この構想の全体像はまだ明らかになっていませんが、こうしたパートナーシップが必要とされる客観的な理由はあります。供給サプライチェーンの困難と個々の国の優位性を考えれば、どの国も単独ですべてを製造する意味がないのです。ですが、これらの国々が一つになれば、大きな相乗効果が得られるのです」。

ムルタジン氏は、これは、中期的な展望においては、米国の同盟国である日本や韓国にとっては有利なものだと考えている。というのも、これらの国の市場は限定されたものであり、こうした協力によって、経済的に世界で最大規模を誇る巨大な米国市場が開かれることになるからだと指摘する。
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