ウクライナの国境線を1991年の段階まで戻す?
ゼレンスキー大統領は英国紙からの取材に、戦闘行為を停止する唯一の方法は交渉のテーブルにつくことであり、それはまさに1991年の時点でのウクライナの国境までロシア軍を戻すことだと語った。
「もし彼(ロシアのプーチン大統領)が今、1991年の時点の国境まで撤退させるなら、外交(で解決できるチャンス)が可能になるだろう」ゼレンスキー大統領はこう語った。
これに対して、ロシアのセルゲイ・ツェコフ議員は記者団を前に、ゼレンスキー大統領の要求は一義的ではないとし、その理由として1991年の時点ではまだソ連邦は存在していたとして、次のように話している。
「ゼレンスキーは、1991年はソ連邦が存在していたということを忘れたのか。彼が言いたいのはロシア連邦軍をソ連の国境まで撤退させるということだろうか? いや、彼が指しているのは独立したウクライナの国境のことだろうが、1991年の時点ではウクライナはまだ自国の国境を画定していなかった。ロシア連邦とウクライナの間の国境線の画定は長期にわたったし、ケルチ海峡について言及するならば画定はとうとう終わらなかったと言える。国境に関する現実に関して言えば、これが現況なのだ」ツェコフ議員はこう語っている。
「和平のための3つのステップ」
ゼレンスキー大統領は12月のG7サミットで加盟国に対し、自分の考える、ウクライナに平和をもたらすための3つのステップを挙げた。
1.
ゼレンスキー大統領は何よりもまず、最新の戦車、大砲、砲弾および長距離ロケット砲をウクライナに供給するよう執拗に迫っている。2.
ゼレンスキーは第2のステップとして、2023年度のウクライナ財政、エネルギー、社会の安定を達成するための支援を挙げ、特にウクライナのエネルギーセクターでストライキが起きることのないよう、十分な保障が必要だと語っている。3.
ゼレンスキーの言う第3のステップとは、彼の考える「平和公式」の実現と、「文書の項目をいつ、どのようにして実現化するかを決めるための」平和のグローバルフォーラムの召集だという。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ公式報道官はこれへの回答として、ゼレンスキーに対し、「先日の住民投票の結果、形成された現実」を踏まえるよう呼びかけ、今年2022年末までにウクライナからロシア軍を撤退させるなど「到底ありえる話ではない」と付け加えた。
ペスコフ報道官はウクライナから離脱したドンバスおよびヘルソン州、ザポロジエ州について、新たな構成体がロシアに編入された事実を「考慮すべき」であり、ゼレンスキー大統領の挙げる和平への3つの条件は戦闘行為をただ引き延ばすだけだと指摘した。
またウクライナの言う「平和公式」については、ゼレンスキー大統領は11月のG20サミットにオンラインで参加し、行った演説で発言している。
平和公式は10段階のステップから成り立っており、ウクライナ政権はこれで自国の平和は達成されると断言している。その中には戦闘行為の停止およびロシア軍のウクライナ領域からの撤退、ウクライナの原子力、エネルギー、食糧の安全保障が挙げられた他、ゼレンスキー大統領はザポロジエ(宇:ザポリージャ)原発の「放射能の安全保障」を復興させ、ロシア産エネルギー資源の上限価格の設定と穀物取引の拡大を呼びかけた。
ツェコフ議員は、ウクライナの提示した「平和公式」にはロシアへの受け入れがたい要求が含まれていると強調し、さらに公式には、ウクライナ大統領にはこの現状で重大な決定を下す権限はなく、関心もないことが記されていると付け加えた。ツェコフ議員は、ゼレンスキーが出した条件は米国やEUのメンバーらとは異なり、ゼレンスキーがウクライナの紛争解決には何の関係もないことを示した点をついている。
ロシアとは一切交渉しない
10月4日、ウクライナ大統領のウェブサイトは、ウクライナ国家安全保障・国防会議の「ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との交渉を不可能」とする決定を認める大統領令を発表した。
これについてロシア大統領府のペスコフ公式報道官は記者団の前で、ロシア側は、現ウクライナ大統領の立場が変わるを待つか、または「ウクライナ国民の利益に従って自分の立場を変える」新たな大統領の出現を待つとコメントした。
クリミア問題
5月、ゼレンスキー大統領はロシアは「2月24日の時点の国境まで」撤退し、和平交渉の条件としてクリミアをウクライナに「返還」すべきと語っていた。
「領土保全の回復は我々の課題では最優先だ。我々は制裁の形でパートナーらから支援を得ており、武器を供給されている。(…)我々の最大の課題は領土保全の回復なのだ。これは後日、別の交渉の形に膨らむ可能性がある」ゼレンスキー大統領はこう語っている。
クリミアは2014年3月に実施された住民投票の結果、クリミアの有権者の96.77%および セヴァストポリの住民の95.6%がロシアへの再編入を望んだため、ロシアの構成体とな った。クリミア自治体は2014年2月にウクライナで起きたクーデター後、この住民投票 を実施した。一方でウクライナは未だにクリミアを自国の領土と主張しつづけて おり、現在の状態をロシアによる一時的な占領と位置付けている。これに対してロシア指導部は、 クリミア住民による住民投票は国際法および国連憲章に完全 な形で則り、民主主義的手段で実施されており、ロシアへの再編入は投票によって選び取られたという立場を何度も 繰り返してきた。プーチン大統領はクリミア問題は「完全に解決済」と指摘している 。