【解説】NATOとウクライナの「同盟」 ウクライナ政府は同盟からどんな兵器を新たに手に入れるのか?

北大西洋条約機構(NATO)の軍事参謀本部は、18日から19日にかけてブリュッセル(ベルギー)で会合を開催し、加盟候補国のスウェーデンとフィンランドからも参加する予定だ。この会合では、NATOの戦闘能力計画の実行を加速していく点とウクライナ情勢が議題となる。また、ウクライナ政府に対するNATOの支援を分析するためのセッションも予定されている。この会議では、ウクライナ政府への新たな兵器供与が決定される可能性がある。
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20日にはドイツの米ラムシュタイン空軍基地でウクライナ支援について話し合う会合が開催され、米国防総省のロイド・オースチティン長官が議長を務める他、NATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長も出席する予定だ。ストルテンベルグ氏はラムシュタイン空軍基地で、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相らが出席する二国間会談を行う予定である。
米国のアントニー・ブリンケン国務長官は、これらの会合について、「その結果として、(軍事援助物資の供給に関する)発表が増えることを期待したい」と述べた。
ブリュッセルで開催されるNATOの会合の前夜、ウクライナ軍のヴァレリー・ザルジニー司令官が、ポーランドでマーク・ミリー米統合参謀本部将軍と初めて直接会談を行ったと発表した。会談でザルジニー氏は、米国の支援に感謝していると伝えた上で、ウクライナ政府が現在望んでいる内容について説明した。

紛争をあおる 「主権」

これに先立ち、ウクライナ大統領府のアンドリー・イェルマク長官は、ウクライナはすでに西側から重火器を受け取り始めており、ウクライナは重火器と戦車を必要としていると明らかにした。
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すでに多くのNATO加盟国が、ウクライナ政府に兵器を供給する用意があると表明している。NATOのストルテンベルグ事務総長は、欧米諸国がウクライナへの重火器供与を近々増やすとの見解を示している。同氏によると、NATOの同盟国は、ウクライナがドイツの主力戦車「レオパルド2」のような戦車を必要としていることを認識している。
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ウクライナへの新たな兵器供与の可能性を議論する空間で先鋒に立っているのは米国だ。米国はウクライナへの兵器供与を味方の国々に促している他、自国からの供与も計画している。ブリンケン米国務長官は、米国はウクライナへの戦車供給を決定する各国の主権を認めており、特定の種類の兵器をウクライナ政府に供給するかどうかの決定は各国の「主権によるところの決定」であるとの考えを示した。
また、米ホワイトハウス国家安全保障会議のジョン・カービー戦略広報調整官は、米国が今週中にウクライナへの新たな支援策を発表する可能性があると明らかにした。この支援策には新たに供給される兵器が含まれているという。
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ウクライナ政府が新たな兵器を受け取るべきだというレトリックは、欧州委員会(EC)のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長からも出ており、同氏はウクライナは使える兵器は何でも受け取るべきだと発言している。

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駐ロンドン・ウクライナ大使のヴァディム・プリスタイコ氏が指摘しているように、ウクライナは西側の味方となる国々から数千両の戦車を必要としており、「チャレンジャー」、「エイブラムス」、「レオパルド」などの戦車を受け取ることを希望している。これまで西側は、ウクライナにロシアやソ連製の戦車しか援助してこなかった。
ドイツ製の戦車(レオパルト)をウクライナに供与するには、各国は輸出規制を解除するための許可をドイツから取る必要がある。レオパルトは、ドイツ、ポーランド、フィンランドに加え、スペイン、ギリシャ、デンマークが保有している。米メディア「ポリティコ」によると、フランスとポーランドがドイツに対して、ウクライナにレオパルトを送るように働きかけている。また、ドイツ政府のシュテフェン・ヘベストライト報道官は、ドイツ政府はウクライナ政府にレオパルト2を引き渡すことは考えていないと述べた。ドイツのショルツ首相は、ドイツは同盟国と行動を調整し続け、拙速な判断はしないと語っている。
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一方、ドイツ紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」が、業界関係者の話を引用したところによると、ドイツ政府が近い将来、ウクライナにドイツのレオパルド2を供与することを決定する。そしてすぐに発注すれば、ドイツの軍需産業は早ければ2023年中に10〜15両を供給できる可能性がある。
しかし、ドイツの自動車部品・軍事車両製造の開発販売を手がける「ラインメタル」のアルミン・パッペルゲルCEOは、ドイツ紙「ヴェルト・アム・ゾンターク」の取材に対し、同社はレオパルト2を22両とレオパルト1を88両を保有しているが、ウクライナ政府に引き渡すための準備に約1年かかると明らかにした。したがって、仮に明日、ウクライナ政府に戦車を送れることが決定したとしても、引き渡しが始まるのは2024年初頭になる。
ショルツ首相とバイデン米大統領が最近の電話会談で合意したように、ドイツ政府はウクライナ政府にレオパルト2に加えて、マルダー歩兵戦闘車と地対空ミサイルシステム「パトリオット」を供与する用意がある。
米ホワイトハウスのジョン・カービー国家安全保障会議戦略広報調整官は、ウクライナに対する新たな支援策を実施する可能性を明らかにしたが、その支援の枠組みでウクライナ政府に戦車を供与することを発表するかどうかは明らかにしなかった。
米紙「ニューヨーク・タイムズ」が米国とイスラエルの当局者の話を引用したところによると、米国防総省は155ミリメートルの砲弾をウクライナに供給するため、イスラエルに保管されている米国製弾薬の大量備蓄を活用している。2022年、米国とイスラエルはウクライナに155ミリ砲弾約30万発を供給することで合意し、その約半分がすでに欧州に輸送された。同紙によると、米国当局は現在、2023年にウクライナ政府に確実に供給できるように「十分な量の砲弾を集めようとしている」という。
英国とポーランドは、ウクライナ政府に新たな兵器を供給する意思を表明した最初の国々だ。
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英国政府はすでに、ウクライナにチャレンジャー2と自走再榴砲「AS90」を供与すると発表している。英国のベン・ウォレス国防相によると、英国はウクライナにブルドッグ装甲兵員輸送車など100両の装甲車を提供する。
ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領は、ウクライナにレオパルト戦車旅団を提供するために、レオパルド戦車を保有する国による国際的な連合を設置する計画を発表した。ドゥダ大統領によると、ポーランド政府はウクライナ政府にレオパルト戦車1個中隊を提供する計画があるという。
また、カナダも兵器を供給する計画を発表している。カナダのアニータ・アナンド国防相は、カナダは米国の防空システム「NASAMS」とその弾薬をできるだけ早くウクライナに供給する計画を立てており、その輸送には何年もかけるべきではないと発言した。アナンド氏は、ウクライナに戦車を供給する可能性については、そういった要請は「ウクライナ政府にとって必要なもの」であると強調したものの、カナダはさらなる議論のために同盟国と連絡を取り続けていると述べた。アナンド氏は以前、ウクライナ向けに米国から「NASAMS」を購入することを確認している。
NATO未加盟のフィンランドのニーニスト大統領は、ウクライナにレオパルトを供給することについては、フィンランドも参加を検討するが、その数は多くはないとの考えを示した。
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これに先立ち、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談で、フランス政府がウクライナに装甲車または「AMX-10RC」装輪装甲車を供給すると明らかにした。フランスのセバスチャン・ルコルニュ国防相は、ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相との会談で、「AMX-10RC」は2カ月以内にウクライナに供与されるべきであると述べた。
イタリアのメディア「RID」は、イタリアが中距離防空システム「SAMP/T」のバッテリーをウクライナに供与することを決定したと報じた。SAMP/Tはイタリアとフランスの共同開発によるものであることから、バッテリーはイタリアとフランスの部品で構成されており、その部品単位でウクライナに輸送される予定。イタリア政府からウクライナに送られた軍事装備のリストは、公式に機密扱いになっている。イタリア紙「コリエーレ・デラ・セラ」によると、「NATOの情報筋によると、イタリアはこれまでに3〜5億ユーロ(約420〜700億円)相当の兵器をウクライナ政府に送っている」という。イタリア紙「ラ・レプッブリカ」によると、イタリアによるウクライナへの軍事支援は、兵器や輸送費などで約10億ユーロ(約1390億円)にのぼる。
ロシアの軍事専門家ウラジーミル・エブセーエフ氏によると、ウクライナは2022年8月から12月にかけて戦車を中心とした重火器を大量に失ったが、ウクライナ政府が保持するソ連製兵器を西側の最新兵器と交換することについては、西側は実際には同意しないだろうとの見解を示している。
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エブセーエフ氏は、「現在、供与は行われているが、ウクライナが必要としている量ではない。ウクライナは数百両の装甲車を必要としているからだ。供与された兵器を侮ってはいけないが、これはウクライナが期待していたようなものとは全く違う。本当はソ連の軍備を西側の軍備に置き換えるという話をすべきなのだが、これは軍備のボリュームが全く違うという話なのだ。西側諸国は、そのような供給には応じないだろう」
モスクワ国際関係大学欧州法学部のニコライ・トポルニン准教授によると、ウクライナ政府がレオパルトの供与に注力しているのは、「その戦車がウクライナ軍の戦闘能力を大幅に強化し、軍事作戦の性格を変えることができるから」だという。

ウクライナ政府が武装化することに反対する声も

欧州諸国やNATO加盟国の多くはウクライナ政府への新兵器供与を支持しているが、こうした展開に反対する声も上がっている。
例えば、イスラエルのベニー・ガンツ国防相は、欧州連合(EU)大使との会合で、イスラエル政府は人道支援を通じてウクライナ政府を継続的に支援しているものの、多くの運用上の理由からイスラエルがウクライナに兵器を供給することはないとの考えを示した。
ハンガリーのノヴァーク・カタリン大統領は、NATOがウクライナ紛争に引きずり込まれないようにしなければならないと警告した上で、感情よりも現実主義に則って行動するように促している。
セルビアは従来から中立を宣言している。セルビアのミロフ・ブチェビッチ国防相によると、セルビア政府はNATOに加盟し、中立的な軍事的地位を変更する意図はない。また、スイスは中立の立場から、ドイツとスペインに供給したスイス製兵器をウクライナに再輸出することを認めないとの立場を示した。
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ハンガリーは、ウクライナに自国の物資を供給することには反対するとの考えを表明している。ハンガリーのシーヤールトー・ペーテル外相は、ハンガリーがウクライナ政府に兵器を供与しないのは、ウクライナ西部に住むハンガリー人を危険にさらさないようにするためであると説明している。
これよりも前、ロシアは、ウクライナへの兵器供与をめぐってNATO加盟国に書簡を送った。ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相は、ウクライナ向けの兵器が入った貨物は、ロシアにとって正当な標的になると明らかにした。ロシア外務省は、NATO加盟国はウクライナに兵器を供給することで「火遊び」をしていると指摘した。ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、西側からウクライナに兵器を送り込むことは、ロシアとウクライナの交渉の成功に寄与せず、マイナスの効果をもたらすと述べた。

NATOは米国による欧州支配のツール

中国人民大学国際関係研究所の王義桅所長は、スプートニクのインタビューで、NATOは今や米政権による欧州支配のツールになっていると説明した。
NATOがウクライナに重火器を供給することの意義と世界の安全保障構造に与える影響とは?この行動によってもたらされるものは何なのか?このような決定は、米国の欧州に対する圧力の直接的な結果なのだろうか?
「米国は、ウクライナとロシアの紛争が続くことで、武器や軍需品を売り続け、エネルギーを売り続け、ヨーロッパの独立傾向を制御・抑制する。より重要なことは、来年の選挙に直接影響を与えるほどにロシアをさらに弱めることを望んでいるのは疑いようがない。現在の米国は、長い間ウクライナやロシアに対するカラー革命を組織し、継続的に扇動し、武器を売り、欧州諸国を説得して新たな兵器を供給させるまでに至っている。米国から独立したロシアと中国に対処するため、米国は言うなれば『友人』を支配している。この背後には、独占資本とつながりのある米国のサークルがいる。軍事産業、エネルギー、金融、デジタル化など、米国は世界を動かし続けたいのだ。だからこそ、米国は常に危機を作り出し、紛争を長引かせ、NATOは(そのための)道具の一つなのだ。また、NATOは現在、グローバル化のためにアジア太平洋地域に絶えず進出し、日本や韓国などの同盟国を味方につけようとし、『グローバルNATO』の創設を計画し、(さらには)中国への対応を図っている」
王氏が強調したように、NATO側からウクライナに新たな重火器を供与することは、米国の兵器とエネルギー資源をEUに売り続けるため、ロシアを弱体化させるために、米政権が必要としているものである。
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