今回の訓練では、ロシアで設計され、インドがライセンス生産している戦闘機SU–30MKIが参加することが、自衛隊の大きな関心を呼んでいる。この戦闘機は、インドが以前、ロシアから調達していたミグ21、ミグ23、ミグ27にほぼ置き換えられるものである。SU–30MKIは、SU–30を近代化したもので、仏軍、英国軍、イスラエル軍が軍備の武器でも装備可能な仕様となっている。
自衛隊にとって、この訓練は、日本の潜在的な敵国である中国も使用しているこれらの航空機が持つ戦闘能力について知る機会を与えてくれるものである。とりわけ、この戦闘機は台湾周辺で目撃されているものだ。今回の共同演習は、日本が今後の中国抑止にインドを引き込んだことを意味するのだろうか?
これに関し、モスクワ国立国際関係大学、東洋学部のウラジーミル・ネリドフ助教授は、「日本が、国際的な同盟や西側諸国との軍事面での協力を活発化しているのには、理由がある」と述べている。
「米国とその同盟国との関係性を専門家らは『ハブ・アンド・スポーク』体制と呼んでいます。つまり、それぞれの国が米国と協力を行っているものの、各国間の協力は行われていない状態です。これが、全ての国が互いに協力しあっているNATO(北大西洋条約機構)の枠内での協力との大きな違いです。しかし、近年、とくにバイデン大統領の就任以来、米国は同盟国同士の協力に期待をかけています。米国を中心に、その周りに多くのさまざまな同盟国があるという体制を変えるためです。そして日本も、地域での紛争が起こった場合に緊密な協力を行うために、軍事分野を含め、他の同盟国との協力を拡大するという次の一歩を踏み出したのです。しかしインドに関してはやや状況が異なっています。総じて、インドは米国とも日本とも近い関係ではありますが、日本や韓国のように100%、米国と結束しているとは言えません。日本と米国は中国抑止のためのインド太平洋地域のコンセプトの枠内での協力を行うつもりですが、インドはこれを自国の利益を考慮した形に変えようとしています。つまりインドには独自の駆け引きがあり、独自の利益、そして独自のヴィジョンがあるのです」。
日本は2022年以降、防衛力の強化に向けた動きを精力的に進めており、これを目的に、国家安全保障戦略の見直しまでしている。一方、ウラジーミル・ネリドフ氏によれば、こうした動きの前提条件は最近出てきたものではないとした上で、しかもロシアだけに向けられたものではないと指摘している。
「日本の防衛力強化は、日本の軍事政策における新たな流れではまったくありません。岸田首相だけでなく、これまでの歴代首相もこの方向で進んできました。安倍晋三首相時代にも、この問題で重大な一歩が踏み出されました。日本社会では、保守的な政治家らからはすでにかなり以前から、日本は『普通の国』になるべきだとの声が上がっています。つまり、憲法上の制限に縛られず、他の国際社会のメンバーのように、国の防衛力を行使すべきだという考えです。あれから、何が変わったでしょうか?この分野での2022年までの前進は、日本が北朝鮮と中国という2つの国からの脅威を感じたことによるものです。北朝鮮に対抗するため、日本は米国と共にミサイル防衛を強化しました」。
一方、中国に対しては、日本の南西部の離島における防衛体制を整備しています。2022年2月24日に始まった出来事は、日本の軍事化プロセスのきっかけとなりました。日本はロシア・ウクライナ紛争を西側の捉え方で受け止めたのです。2022年まで、ロシアと中国の戦略パートナー関係が潜在的に日本に向けられるかもしれないという懸念はあったものの、日本はロシアを深刻な脅威とは見ていませんでした。しかし現在のロシアの状況を日本はきわめて深刻に受け止めており、2022年12月に採択された新たな国家安全保障戦略でも、ロシアの政治に対し、かなり厳しい評価が盛り込まれています。野党を含むすべての政党が、反ロシア的な立場をとっています。こうした面で日本は完全に米国と結束しています。しかし、日本が現在行なっている防衛力の強化は、依然として、何より中国および北朝鮮の脅威に対抗するものです。しかし、現在、ここに、重大な但し書きはあるものの、ロシアが加えられています。要するに、わたしが言いたいのは、こうした動きは昨日今日始まったことではなく、またロシアだけに対するものではないということです」。
一方、ネリドフ氏は、日本の世論は全体として、日本政府の反ロシア的な行動を支持していると指摘する。これは、日本のメディアが、異なる視点をほとんど伝えていないことにもよると述べている。
「いずれにしても、米国と距離をおくべきだ、あるいは中立的な道を進むべきだといった考えはほとんどありません。そのような意見を持つ政治家も中にはいますが、非常に限られており、世論全体に影響を与えるには至りません。日本の有権者が防衛強化に反対するとすれば、それは費用が嵩むためでしょう。しかも日本では物価が毎月上がってきています。とはいえ、これはエネルギー資源の価格が高騰しているためで、ここではロシアによる影響はほとんどありません。税金について言えば、防衛費増大は計画的に進められるもので、大幅増税が必要となるほどの規模ではありません。日本の計画はGDPの2%のレベルにするというものです。これはNATO諸国の標準レベルで、多くの国の防衛費はそれよりはるかに多くなっています。日本では多くの予算が国債によって賄われていますが、これもそれほど過大評価する必要はありません。なぜなら、国債者は基本的に日本の企業であり、経済破綻することはないからです。つまり、経済的な負担というのは、政治家にとっても、有権者にとっても、このプロセスを回避するための根拠にはならないということです」。