【視点】日韓関係の改善は、「選挙による変化」がない限り続いていくだろう

2011年以来となる韓国大統領の日本への公式訪問は、成功裡に終わったようである。いずれにせよ両国は、長年にわたって二国間関係の発展の妨げとなってきた多くの問題で、相互理解を得ることができた。両国関係に変化の兆しが見られるようになったのは、保守政党「国民の力」の尹錫悦代表が政権に就いてからである。尹錫悦大統領は当初から、米国との同盟関係の強化と日本との関係改善を外交政策の優先課題に据えていた。今回のこうした動きは、米国や日本には歓迎されているが、中国や北朝鮮には受け入れられていない。そして韓国国内でもこれに納得していない人は多い。
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尹錫悦大統領の訪問を前にした3月15日、北朝鮮は地対地戦術弾道ミサイル2発の発射実験の実施を発表し、16日午前7時、大陸間弾道ミサイルを発射、ミサイルは日本海に落下した。大統領は、日本への出発を前に、国家安全保障会議(NSC)に出席し、北朝鮮に対し、「無謀な挑発には対価が伴う」と警告した。北朝鮮は、このような形で日韓首脳会談を阻止を試みたか、あるいはそれに対する不満を表そうとしたものの、このミサイル発射は安全保障分野における日韓、そして日米韓のより緊密な協力に向けた新たな根拠となった。
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韓国国民大学校のアンドレイ・ラニコフ教授は、「スプートニク」からのインタビューに応じた中で、「尹錫悦大統領の日本訪問は、少なからず、最近、北朝鮮が核兵器の開発において大きな成功を収め、すでに一度ならず、その兵器を韓国に対して使用すると威嚇していることによって実現されたといえる」と述べている。
「こうした北朝鮮の脅しはおそらく、言葉だけのものに過ぎないでしょう。しかし、これは南北朝鮮の関係改善を促進するものではけしてありません。さらに、北朝鮮との宥和を熱心に支持してきた人々、また北朝鮮との段階的な接近は安全保障分野における国の利益に合致するとして、隣国、北朝鮮に対してより寛大な政策をとるよう主張していた人々も、すでにそうした考えに執着しなくなっており、韓国と日米との関係を、よりプラグマティックに捉えるようになっています。大統領率いる右派勢力は、軍事技術協力を中心に、日本との友好関係を最大限に改善するべきだとの立場に立っています。これは日本との軍事同盟の創設という意味ではありません。それは親日的な勢力ですら受け入れられないことです。韓国がもっとも関心を持っているのは、防衛分野における技術協力、とりわけ、GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の枠内での情報交換です」
尹錫悦大統領は、訪日を前に、読売新聞からの単独インタビューに応え、その中で、日本が敵領土内のミサイル発射拠点などを攻撃する「反撃能力」の保有を決めたことについて触れ、「北朝鮮の中距離ミサイルが日本列島を通過する状況であり、(反撃能力の保有を)理解している」と語った。その上で大統領は、経済・通商、科学技術、安全保障分野における両国関係の正常化は、両国だけでなく、国際社会全体にとってポジティブなシグナルになるだろうとも述べた。
日韓首脳会談では、外務および国防当局間の「安全保障対話」を5年ぶりに再開する問題が主要なテーマの一つとなった。日本との二国間関係に影を落としていた過去を清算するため、尹錫悦大統領は、訪日の1週間前に、第二次世界大戦時に強制労働に従事させられたと主張する韓国国民に対する賠償支払いに関して、新たな「解決策」を提示した。
この計画では、韓国政府によって創設される「未来基金」が、韓国の民間企業―とりわけ過去に1965年に結ばれた日韓請求権協定に基づいて経済協力を受けた企業などから寄付を募ることになっている。
この呼びかけに最初に名乗りをあげたのが、日本からの資金で設立された鉄鋼大手ポスコである。一方で、多くの韓国国民は、こうした政府の計画に賛同しておらず、被害者は賠償金は基金ではなく、日本企業が支払うべきだとして新たに訴訟を起こした。
これに関して、アンドレイ・ラニコフ氏は、これは内部不和によるものだと指摘している。
「右派は絶対的に日本との関係改善を支持しており、譲歩や妥協の用意があるとすれば、左派は日本は十分反省していないと考えています。つまり、左派は一貫して、日本人は賠償金を支払い、韓国国民に謝罪すべきだという立場に立っています。しかも、いわゆる『従軍慰安婦』問題では新たな犠牲者も見つかっています。かつては多くの人が、そのことを公にしたくはないと考えていましたが、だんだんと年齢を重ねて、過去を打ち明けるようになった人がますます増えているのです。しかし、今となっては、それが強制的なものであったのか、自発的なものであったのか、判断することはできません。労働のために日本に向かった人々についても同じ状況です。彼らは賠償、反省、謝罪を求めています」
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日本政府は今回の賠償金をめぐる韓国政府の新たな提案を評価した。すでに、5月19日から21日にかけて広島で開かれるG7首脳会議に尹錫悦大統領を招待する可能性についても検討されているが、最終的な決定は、首脳会談が終了した後、下されることになる。会議には、各国首脳のほかに、両国の経済界の代表が参加することになっている。
また今回の首脳会談で双方は、日本はこれまで韓国に対し行っていた半導体やパネルディスプレイの核心素材の輸出規制を解除し、韓国はこの制限に対するWTO(世界貿易機関)への提訴を取り下げることで合意した。
今回の韓国大統領の訪日は、長期的で安定した日韓関係の構築につながるのだろうか?この問いに対し、アンドレイ・ラニコフ氏は次のように述べている。
「今回の和解ムードが韓国の次の選挙まで続けば、今後数年にわたり、日韓関係が大幅に改善される可能性は十分にあります。ただ、尹錫悦大統領率いる右派は日本との関係をリセットしようとしているものの、左派の中にはこれを裏切りだと考える勢力もあります。彼らは日本を、中国と同じく、敵国と見なしています。今は右派が政権に就いており、日本との関係をなんとか改善しようと努力していますが、もしも左派が政権に就けば、今回の合意が破られる可能性は十分にあります。この『選挙による変化』というのは、韓国の内政においてかなり特徴的なものです。これは、どうしても歩み寄ることができない右派と左派の内政の不和です。この両勢力を結びつけているのは、中国への敵対心だけです。
しかし、最近の世論調査で、『嫌いな国』のランキングで中国が初めて、日本を上回ったことは注目に値します。過去数十年で、『もっとも嫌いな国』で中国が1位に躍り出ました。このことも、日本との長期的な二国間関係が期待できる期待を抱かせるものです。少なくとも、次の韓国での選挙までは」
一方、これについて、世宗研究所日本研究センターの陳昌洙所長は次のように述べている。
「韓国の野党が歴史問題を政治化しようとする試みは今始まったものではありません。韓国は、強制労働問題に関して、差し押さえた日本企業の資産を現金化することはできません。また被害者については、我々自身でなんとかする必要があります。野党(民主党)は今でも多くの議席を持っていますが、今のように、ただ単に批判するためだけに、批判するのではなく、自分たちが政権に就いていたときに、この問題を解決すべきでした。
そして同時に、関係改善が可能な場所で、それを続けることです。それとは、たとえば、日本に関するあらゆる問題です。防衛分野において日本側だけに利点があるのではないかという報道がありますが、これは正しいものではないでしょう。なぜなら、この分野での協力に関しては、一方的な協力というものはあり得ないからです。ですから、すべての問題が複合的に解決されることになるでしょう。国内には一定の問題がありますが、国際関係においてはすべてが正常化し、韓国、日本、米国との協力も継続されると思います」
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