2019年までは、ビザなし訪問専用船「えとぴりか」が頻繁に根室港に入港していた。根室市民有志によるボランティアグループ「ビザなしサポーターズたんぽぽ」の代表、本田幹子さんは、訪問団が行き来するたびに、見送りや出迎えを行ってきた。四島の子どもたちに日本食や日本文化に触れてもらうためメンバーとともに家庭料理を振る舞ったり、ビザなし交流事業応援旗を作成するなど、交流を有意義なものにするため、様々な活動を行ってきた。さらに本田さんたちは、コロナ禍にあっても友情を温めるべく、オンライン交流の試みを行っていた。
「ビザなしによる住民同士の交流、自由訪問、墓参が中断して3年が経ちました。コロナで交流が中止になって2年目の秋、2021年の11月に、せめてオンラインで交流をしようと、根室市からはビザなしサポーターズたんぽぽのメンバーと、色丹島元島民の得能宏さんが参加し、オンラインで色丹島の皆さんとつながることができました。その時、来年はビザなし開始から30年の節目なので、四島の皆さんとたんぽぽのメンバーとでSNS上にページを作って、互いに写真をアップし合いましょう!と計画していました。また、国後、択捉に住む友人とも、オンラインで交流をしようと思っていました」
しかし、ウクライナ危機をめぐり日露関係は急速に悪化。2022年9月7日には日本の対露制裁への対抗措置として、ロシア政府は日本側に「自由訪問」「ビザなし交流」の合意を破棄したことを通達した。
本田さんにはたくさんの友人がいるが、政治的情勢を鑑み「日本人から連絡を受けていることがわかれば、迷惑がかかるかもしれない」との気持ちから、連絡ができないでいる。また、交流事業を担当していた自治体、北海道や根室市の各担当部署は、人事異動のために、実際の交流事業に携わっていない職員が多く、ロシア側もそうではないかと本田さんは危惧する。
本田さんは「たくさんの友人が近くの島にいるのに会えない状況は、悲しくてとても寂しいです。今後は、交流が再開できれば親しい友人とは元通りの交流ができると信じていますが、それもいつになるか見当がつきません。再開する日が本当に来るのか、30年かけて築いてきた友好関係が全て無駄になってしまうのではないか、領土交渉はどうなってしまうのか、心配はつきません」と、不安な気持ちを吐露した。
2022年には、ビザなしの代替事業として、「えとぴりか」を利用した洋上慰霊が10回行われているが、関係者からはロシアが合意を維持している北方墓参だけでも、と四島訪問の再開を望む声が高まっている。
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