ロシアはウクライナにおける特殊軍事作戦開始前、米国や東欧の旧社会主義諸国にとって、最大のウラン燃料供給者だった。だが、西側は対露関係の悪化により、これまで購入したロシア産の原子力燃料を拒絶する姿勢を示している。特にここ数カ月はこの議論が活発になっている。
ウクライナは今に至るまでロシア産ウラン燃料に制裁が課されていないことに当惑している。1年経っても全く動きがなかった。だが、時は来たようだ。米メディア「ブルームバーグ」はこのごろ、一部の東欧諸国が原発用の代替燃料を探していると報じた。2025年からは永久的にロシア産濃縮ウランから脱却する予定だという。
そこで彼らは世界のウラン生産量の40パーセントを占めるカザフスタンの存在を思い出した。大変結構なことだが、ウラン燃料の生産は、単に採掘すればいいわけではないのだ。濃縮する技術が必要になってくる。
露エネルギー発展基金で代表を務めるセルゲイ・ピキン氏は、次のように話す。
「必要な量だけでなく、必要な品質と仕様を兼ね備えた燃料を供給できる実際のサプライヤーを探すという深刻な問題がある。これはガスや石油を代替するのとは訳が違うのだ。ウランの有無というより、技術的要素が問題となってくる」
カザフスタンの原子力企業「カザトムプロム」のエルジャン・ムカノフ社長は、これまでに「ブルームバーグ」のインタビューのなかで、「カザフスタンは市場の需要に反応できる」と述べている。ここでは「反応」という言葉がキーワードになっており、カザフスタンが市場の全ての需要をまかなえると言っているのではない。ムカノフ社長の発言からは、非常に慎重な態度が伺える。
東欧諸国が必要としているのは、まさに「ロシア式デザイン」のウラン燃料だと、ピキン氏は続ける。
「現在、彼らはいかなる問題も『起こりえない』燃料を探している。しかし、ウクライナを見てみよう。ロシア産から米国産の燃料に移行しようと10年間も試みている。かなりの労力を費やして、一部の原発では移行に成功している。だが、その他の場所ではいまだにロシア産が使われている。目的に沿う技術が必要なのだ」
ピキン氏によると、カザフスタンの原子力産業は歴史的にロシアとの密接な連携の上で成り立ってきた。すなわち、「メイド・イン・カザフスタン」とウラン燃料に書かれていたとしても、本当は誰がつくったかはわからないというわけだ。
一方で、ガスや石油より代替が簡単な点もある。それは、ウランは化石燃料に比べて「かさばらない」という点だ。ウラン235は1グラムで石炭3トン、石油2000リットル分のエネルギーを生み出すとされている。つまり、大型のタンカーや船舶が必要になる化石燃料に比べ、ウラン燃料の物流コストは、安全対策などを除けば数倍も少ないということだ。
もし、欧州諸国が本当に代替燃料を見つけることができても、ロシアが被る損失は比較的小さいとアナリストらは分析する。というのもロシアのウラン燃料の輸出額は、化石燃料のそれと比較して桁違いに少ないからだ。
また、ロシアにとって代わりの買い手となりうるのは、ロシアの技術が導入された新しい原発プロジェクトだ。例えば、中国やイランはすでにその例となっているほか、将来的にはエジプトでもロシア式の原発建設の可能性がある。つまり、ロシアには東欧諸国が抜けた穴をカバーするだけの切り札があるわけだ。ロシアは原発プロジェクトの計画、建設、保守点検、人材育成、共同融資などを促進し、「ロシア式デザイン」のウラン燃料の新しい買い手を見つけることができる。
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