余剰はいずこ 米国の戦略的石油備蓄はすでに半減

米国エネルギー省の発表した資料によれば、米国の戦略的石油備蓄量は過去40年間で最低水準まで落ち込んだほか、備蓄保管庫もほぼ半分に空になっているという。ロシア人専門家らは、米国の石油備蓄が不足した原因とそれが世界の石油価格に与える影響について検証した。
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米国はロシア産石油の禁輸で自分にしっぺ返し

米国はロシア、サウジアラビアと並ぶ世界3大産油国。米エネルギー省の評価ではこの3国は地球全体の産油量の40%以上をカバーしている。
ところが米国はロシアやサウジアラビアとは違って、自国のプラントだけでは生産が追い付かず、自国で必要な燃料を完全には供給できないため、国外からの追加購入が欠かせない。しかし、世界の炭化水素市場の供給量には限度がある。このため、2022年、ウクライナでの特殊軍事作戦に始まるロシア産石油および石油製品の禁輸によって米国は燃料の不足に陥ってしまった。米エネルギー省によると、最大7億2700万バレルまで保管できる石油貯蔵庫の水準は2022年春には76.5%だったのに対し、現在では50.6%まで下がってしまった。

OPECは米国を救わなかった

ロシア産石油を拒否した米国は、不足分を中東の石油で補うつもりだった。だが、そうは問屋が卸さなかったと専門家らは指摘している。2023年4月上旬、OPECプラスは5月から2023年末までの期間、自主的に日量166万バレル減産すると発表。ロシア産原油禁輸による不足分を補うと欧州の同盟国に約束した米国が、欧州諸国への燃料供給を大幅に増量したことを考慮すれば、これが世界的な商品価格の上昇と相まって、米国内の燃料の不足と価格上昇を招いたとしても何の不思議もない。
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とうとう戦略的備蓄に手を付ける

専門家らは、 米国で燃料価格が2~3倍に高騰すれば、インフレ上昇は免れないと言う。2022年当時、バイデン政権は石油の戦略的備蓄の一部を売却することで市場の均衡を図ろうとした、だが、戦略的備蓄はそもそも決して開けてはならず、国家の安全を脅かす緊急事態にのみ使われるべきものだ。ところが、米国の戦略的石油備蓄を売却したところで、プラスの効果は短い間しか出なかったと専門家らは指摘する。2023年春、世界市場で原油価格は再び著しく値上がりし始め、その結果、米国内の燃料価格も上昇し始めた。このため米国は自国の備蓄を放出し続け、最終的にほぼ半分にまで減らしてしまった。

国際石油市場の近未来はいかに?

ロシア人金融アナリストのユリア・メルニコワ氏はこう語る。

「世界の商品市場には対露制裁 を背景に2つの対抗軸が確実に存在する。1つは原油価格の高止まりを狙うOPECプラスが減産を進めており、もうひとつは原油価格の上昇を防ごうとする米政権が戦略的備蓄を犠牲にしている。米国が今後どのような動きに出るか、国家石油備蓄量の削減はどこが最低許容レベルとなるかについては推測はまだ難しい。とはいえ、OPECプラスには価格安定のために追加減産を行うことは難しいことではない」

一方でロシア人専門家らは、現在の困難な状況下で、はたして米国に自国の石油の大幅増産が可能なのか疑っている。米国のエネルギー生産は、近年、環境保護のアジェンダが積極的に推進されていることも手伝って、大規模な投資が行われておらず、停滞している。また、シェールオイルの生産は、鉱床が次第に枯渇しているために成長が鈍化し始めた。
これより前、米国当局は国際原油価格が1バレルあたり70ドルを切る場合にのみ、石油の貯蔵を開始すると決定していた。金融アナリストのイゴール・ユシュコフ氏は、ところが未だにこうした事態に至っていないため、米国は資源備蓄ではなく、売却し続けていると指摘している。
「このような状況から市場は緊張状態から解き放たれない。遅かれ早かれ、米国は戦略的備蓄の補充を迫られることは誰もが理解している。その場合、米国の石油需要が増加するために国際石油市場で新たな価格上昇が起こるだろう」ユシュコフ氏はこう結論づけている。
先日、スプートニクは、西側諸国はロシア産金とエネルギー資源に制裁を科すことで、自らに死刑宣告を下したとする米国人コラムニストの見解を紹介している。
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