モスクワ国際関係大学・地生態学研究所のナタリヤ・リャザノワ所長は、スプートニクに対し、科学的にみて海洋放出の安全性は理解できると話す。
「トリチウムの半減期は12年半です。つまり福島第一原子力発電所の事故後、このプロセスはほぼ完了したと言えます。こうしたことから、汚染水の海洋放出が条件付きで安全だという理論は理解可能なものです。しかも放出の前には浄化処理が行われます」
「人間の健康に被害をもたらす」などという話は一体どこから来たのだろうか。リャザノワ所長は、はっきりとした科学的根拠はないと指摘する。
「トリチウムは濃度が高いと、植物や動物プランクトン、また魚が食べるその他の微生物などに蓄積されます。人間が、このような魚をかなり長期間にわたって摂取し続ければ、健康に影響を及ぼす可能性もありますが、詳細な研究はこれまでにありません。つまり、人体に直接的な被害があるという根拠はないのです」
一方、長期的な少量の放射線の継続被爆の影響に関する研究はある。空気中の放射性物質を吸い込んだり、食事により飲食物中の放射性物質を体内に取り込むなどする「内部被曝」については、様々な国で調査されている。
だが、これらはほぼ全て研究所内でマウスなどの実験動物を使って行われているものだ。リャザノワ所長によると、「もし汚染された海産物を20年にわたって摂取した場合、その人の健康に悪影響を及ぼす可能性は高まる」ものの、人体への健康被害を直接証明するものは今のところないという。
こうしたことから、リャザノワ所長は「30年をかけて行われる、トリチウムを含んだ福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に危険はないとする研究者らの考えに同意します」と締めくくっている。
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