原発処理水の放出、IAEA「安全基準と一致」 岸田首相、グロッシ事務局長と会談

日本の岸田文雄首相は4日、訪日している国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長と会談した。東京電力福島第一原子力発電所に保管されている放射性物質トリチウムを含む処理水の海洋放出をめぐり、安全性を検証したIAEAの報告書が岸田首相に手渡された。報告書では処理水放出計画は、「IAEAの安全基準と一致している」と評価された。日本の各メディアが伝えている。
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共同通信などによると、報告書では処理水放出による人や環境への放射線の影響は「ごくわずか」と指摘されている。岸田首相は今後、報告書の内容を踏まえ、夏頃としてきた放出時期を最終判断する。
岸田首相は会談後、IAEAから「処理水の排出が国際安全基準に整合的であること、人及び環境への放射線の影響は無視できるほどであること」の説明があったと明らかにした。そして、科学的根拠に基づいて国内外に対して透明性のある丁寧な説明を行うと強調した。
また、グロッシ事務局長は会見で、「包括的で中立的、科学的な評価が必要。そのことに自信を持っている」と述べた。そして、懸念する周辺諸国に対しては「客観的な答え」を提供すると約束した。
【図説】福島第一原発の処理水 海洋放出開始へ

汚染水と処理水

事故後の原子炉の冷却に使用した水は、放射性物質で汚染される。この「汚染水」をALPS (高度液体処理システム)で浄化し、約62種類の放射性物質を取り除いたものがいわゆる「処理水」だ。だが、ALPSでは放射性核種であるトリチウムの除去はできない。トリチウムの濃度を国際的な基準より低い数値にまで下げた水を海洋に放出するのが今回の計画となっている。
東京電力によると、タンクに貯められた処理水の量は6月29日時点で約133万トン。原発の廃炉作業に合わせ、30年ほどかけて放出するという。
科学的知見からは概ね安全性が認められているものの、風評被害も含めた周辺諸国の懸念は残る。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官はこれまでに、「我々は日本政府を非難しているわけではない。放射線の脅威を引き起こす可能性のある行動について通知するよう求めている」と日本側に透明性を求めるロシアの立場を表明している。
【視点】福島第一原発の処理水放出 「健康への脅威」の根拠はあるのか
スプートニクは処理水の海洋放出に関するこれまでの流れを、時系列でまとめた。
処理水海洋放出、これまでの流れ

年月

できごと

2011年3月

東日本大震災の津波で、福島第一原発が電源消失。3基の原子炉で事故が発生

2021年4月

日本政府は処理水の海洋放出を決定

2021年9月

計画を受け、IAEA特別委員会が初めての調査を行う。その後、約2年間にわたり、処理水が環境に及ぼす影響などを調査した

2022年8月

放出用トンネルの工事開始

2023年5月末~6月初旬

IAEAの専門家チームが、計画の安全性を評価する最終的な調査のため来日

2023年6月末

放出用トンネルが完成。これを受け、原子力規制委員会が最終的な調査を行い、設備面での準備が整う

2023年7月4日

IAEAが計画は「国際的基準に一致する」とする報告書を提出

2023年夏~

海洋放出開始

2053年ごろ

海洋放出の完了見込み

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