【解説】世界最速の戦闘機はこれだ 超音速機の興亡

20世紀初頭に航空機が登場し、世界中の技術者らが最速を目指してしのぎを削った。特に軍事分野では戦闘機や偵察機の速度が重視された時代があった。戦闘機にとっての速度の重要性の変遷はいかなるものだったのか、そして現在世界で最も速いのはどの戦闘機なのか。スプートニクが解説する。
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音速の3倍で大空をかける

世界最速の戦闘機は、歴史上最も強力で先進的な空軍を擁するとされる米国の「F35」でもなければ、フェロン(重罪人)の名で恐れられるロシアの最新鋭「Su57」でもない。実は、旧ソ連が1960年代に開発した「MiG25」が2023年現在、実用化された「最も速い戦闘機」なのだ。
MiG25は武装なしの偵察型で「無理をすれば」マッハ3.2まで出せる。もちろん、最高速度を出すとエンジンがオーバーヒートしてしまうため、最大実用速度は時速3000キロ(マッハ2.83)に抑えられている。
ちなみに、MiG25は空気吸込み式ジェット機(宇宙ロケットではない航空機)の飛行高度の世界記録3万7650メートルを達成し、この記録は現在まで破られていない。また、MiG25はソ連軍パイロットが迎撃機で函館空港に強行着陸したベレンコ中尉亡命事件で乗った機体としても知られている。
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なぜ速度を重視?

一方、速度に振り切った設計のため、重量級で燃費はお世辞にもいいとはいえない。では、なぜソ連はMiG25を作ったのか。それはライバル米国の存在だ。
米国は1950~60年代、マッハ3以上で飛行する迎撃機「YF12」やヴァルキリー計画と呼ばれた爆撃機「XB70」の開発を進めていた。これら計画は頓挫し試作機の実験や研究止まりとなったが、技術の一部は偵察機「SR71 ブラックバード」に受け継がれた。SR71は最高速度マッハ3.4の有人実用ジェット機としては史上最速の航空機だ。この記録も現在に至るまで更新されていない。
当時の空中戦では速度が明らかに優位性をもたらし、速ければ速いほど敵機を追い詰めたり、逃げ切ったりするのに有利だった。ソ連にMiG25開発の動機を与えたのは、米国の超音速戦闘機、偵察機への対抗の必要性だった。
MiG25の改良型は各国に輸出され、実戦使用されている。例えば、1991年の湾岸戦争ではイラク空軍のMiG25が当時最新鋭だった米戦闘機「F/A18 ホーネット」を撃墜。湾岸戦争中に公式に認定された唯一の米空軍機の空中戦による損失となった。
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多様化する戦闘機

だが、MiG25はすでに多くの国で退役しており、ソ連、ロシア空軍でも主力戦闘機は何度も代替わりしている。それでもMiG25の速度を超える戦闘機が現れていないのは、現在の戦闘機に求められる性能が変わったからだ。米F35や露Su57の速度はそれぞれ、マッハ1.6(時速1976キロ)、マッハ2(時速2470キロ)以上といわれている。超音速機には変わりないがMiG25には遠く及ばない。
「空飛ぶコンピュータ」と呼ばれる戦闘機には今、高度な戦闘システムやレーダー性能、搭載できるミサイルの射程や航続距離など様々な能力が求められており、速度だけで優劣は決まらない。軍用機の世界でもステルス機やドローンなど、用途に応じた多様化が進んでいる。戦闘機の速度だけが「ものをいう時代」は終わったのだ。
例えるなら、運送会社が馬力のある大型トラックだけを使うのではなく、輸送能力が低くても小回りの利く三輪自転車での配達や、高速が出せなくても無人自動運転トラックによる輸送技術のテストに力を入れているのと同じようなものだろうか。あるいはゲーム好きの読者の方には、「グランド・セフト・オート5」で作中最速クラスの「LF22・スターリング」や「P996・レーザー」より、「オプレッサーmk2」の方が使い勝手がいいのと同じだといったほうが分かりやすいかもしれない。
第6世代ジェット戦闘機の開発には各国が乗り出している。米国はステルス爆撃機「B-21・レイダー」、日本も英国、イタリアと共同で次世代戦闘機の開発計画を進めている。
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